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(司会) 楯谷さんの研究についてお聞きしたいんですが、内耳の「発生」というのは具体的にはどういう意味なんですか?
(楯谷) その臓器が主に胎生期に、どうやってできあがるかということです。先天性難聴は先天異常の中でも頻度が高く、また多くの人は老人性難聴にもなりますので、難聴の治療につながりうるという意味でも大事だなと思う分野です。難聴の原因は、 音波を電気信号に変える内耳の中の特別な部分にあることが多いんですが、音のセンサーの役割をする有毛細胞が一番弱くて、そこが一番やられやすいんですよ。哺乳類の内耳は分化が進んでいて特殊な形になっていて、成熟した哺乳類の有毛細胞は、 いったん死んでしまったら再生しないといわれています。下等な動物だと、 周りの細胞がまた有毛細胞になったりするんですけど。この有毛細胞が発生段階でどのように出来ていくかというところからアプローチしています。機能しなくなった内耳をもう一度作ってあげたいというようなものが究極の目標なんですけど、胎生期にどういう風に出来上がるかということがそのためには大きなヒントになるだろう、というような発想です。
(司会) 未来の治療という観点で言うと、痛んだ有毛細胞を人工のものでカバーするのか、再生医療でカバーするのか。
(楯谷) 理想を言うと周りの細胞が化けてくれたら一番良いですね。細胞を移植するのは難しいので。特に内耳の場合は固い骨の中に埋まってて深い場所にあるので、アプローチがとても難しいんですね。その前に、 試験管内で培養細胞や培養組織を用いて内耳の細胞や構造を再生させることから試みるのが現実的と私は思っています。網膜とかだと ES 細胞から 3 次元的な構造が作られてるんですけど、内耳ではまだされてないです。まず3次元構造を作るには何が必要かということも、発生段階ではどのようになっているかということから調べたいです。試験管内で細胞や構造を作製することができても、 患者さんに応用するにはまだまだ遠いですが、例えば新薬がどういう影響を及ぼすかといったテストには使えます。また、その研究過程で新しくわかってくることがあるはずと思います。