| ENGLISH |
(NB) 言葉が同じだから必ずしも仲良く理解しあえるというわけではなくて、やっぱり文化とか歴史とか色んな、その言葉を使ってお互いを深く知り合うことができれば、それは全体としては良くなるんでしょうけど、でもその、すぐに友達ができて、すぐに仲良くなれるかっていうとやっぱりまあ、色々場面が違いますしね。
(HK) エスペラントが特別なところは、エスペランチスト同士なら簡単にうちとけるところですね。喫煙者が喫煙所ですぐにうちとけるようなもので
(TS) そうです
(HK) そうでしょう
(BM) 喫煙者が箱の中にいれられるように、エスペランチストも大会のときには200 以上の国から人が集まる場所にとじこめられる。でも、言語の壁は感じないですね
(TS) 横浜で開催されたエスペラント世界大会に参加したんだけど、喫煙者用の箱の中でイタリア人にあったよ。仕事は何かときかれて、大学で教えていると言ったら、とても残念そうだった。「あんたもか。ここに労働者はいないのか。俺は建設業だ。世界の労働者と語り合いたいのに、教師と事務員しかいない。俺は孤独だ。労働者はどこだ」と言ってた。教師も労働者だと言ってもよかったけど、そうは言わなかった。面白いのは、少なくとも日本では、喫煙所にいけば労働者に会えるということだね。実際いつものように、彼のような労働者に会えたんだから。だけど彼にとってはそうではなかった。いずれにせよ、喫煙所に行けばいろんな人とお喋りできるのは楽しいよ
(HK) 英語はどうですか。これだけたくさんの人が話すと、話せるのが普通のような気もしますけど
(NB) まあ、英語を喋ってくれる人に会ってもコミュニケーションの上では便利だけど、何も別にうれしくはないですね。英語話者だから当然と思う人もいっぱいいるんでしょうけど、そうじゃない人は、白人でも何人でもなんでも英語で当然話しかけられて、それはやっぱりどうかなと思うんです。気持ち的には。
(BM) もしも同じ「なまり」で話してきたら、親近感がありませんか
(NB) もちろん
(BM) 英語といっても「なまり」による階層差があると思うんです
(HK) 「なまり」は問題ですよね。肌の色もそうですけど、発音みたいにすぐにわかるような特徴で判断されがちですから
(NB) 残念ながら階層はあるね。学生には「グローバル英語」について話すんだけど、何が「標準」なのか、イギリス英語なのか、BBC とか CNN とかの英語なのか、そもそも「英語」とよんでいいのか、どのように使用されるのか、などなど
(HK) これについて言えば、京都大学をはじめとして日本の大学ではよく英語教師が募集されて、母語話者でないとダメとかいいますけど、どんな階層出身のどんな英語の母語話者ならいいんですかね
(NB) コミュニケーションの英語は非母語話者のものだよね。ただ「グローバル英語」といっても階層がある。英語圏の中でも中核的な英語にまだ権威がある一方で、シンガポール英語とかインド英語のようなさまざまな「グローバル英語」も台頭している。そういう人たちは母語のように自分たちの英語を話している。そうした「英語」が認知される時代もすぐに来ると思いますよ
(BM) 本当にそう思いますか
(NB) 標準化から引き離す力が働いていると思う。技術の進歩とグローバル化とローカル化が同時進行していて、アングロサクソン中心主義の力が強大ではあるけど、一方で僕たちが思っている以上に多様化と分裂も発生していると思う。色々な場面で実際にどんな英語を使っているかを調べてみるほうが、どんな教科書を使っているかを比較してみるよりも、何かわかるかもしれない
(BM) いわゆるグローバル化といっても、実際にはアメリカ化ですよね。それなりの英語を話したいなら、マスメディアや映画でみられるように、英語の特定の変種を使わないといけませんね
(NB) そうなんだけど、世界における中核的英語圏の地位と関連していて、これから変わっていくんじゃないかな
(HK) 本当に変わってほしいですよね。そして、いわゆる「ネイティブ・チェック」なんてものが学術論文に要求されない世の中になってほしい。言語学者は言語の多様性が大切だといって研究費をとってくる一方で、成果は英語でかかれたものをありがたがって他のは無視したりしますけど、そういう態度もあらたまってほしい
ラオスで漢字と併記されるラオ文字。縦書きになっているのが珍しい(NB)。