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(司会) 最適化っていうのは、いろいろベクトルがあるわけですよね。例えば最短距離を考える問題でも、最短ルートはすごく混んでるから、回り道をした方がいいとか。
菊谷 そうですよね。
(小川) 生物なんて、まさにすごい最適化ありそうなイメージなんですけど。
(宮﨑) と思ってるんですよ。何だろうな…。僕、チョウチョが好きで、この前、昔、チョウチョを一緒に取りに行ってた仲間が京都まで遊びに来てきてくれて。京都にはキマダラルリツバメっていう珍しいチョウがいて、それを捕りに行ったんです。アリと共生してる、すごく珍しい生態なんですけど、そのチョウが特徴的なのは、尾状突起っていう、下側の翅(はね)に…、
(菊谷) (写真を見て)突起がある。
(宮﨑) そう、突起が出てるんです。普通は突起があっても左右の翅に1本ずつ、合わせて2本だけど、この種類は日本のチョウで唯一4本突起が出てるんです。この突起っていうのが通説によると、触角に擬態してる、似せてるんじゃないかって言われています。チョウの主な天敵って鳥なんですよね。それで頭からなるべく遠いところに触角みたいなものを生やして、さらにそのつけ根に目立つように赤い紋をつけてるんですよ。
(小川) それを頭に見せてるんですか?
(宮﨑) そうです。そうなんです。
(小川) 突起をかじられても生き残れるんですか?
(宮﨑) 翅の一部が欠けても大抵は平気です。尾状突起はアゲハチョウの仲間なんかも多くの種類が持っていて、進化的には全然違うグループのものが、みんな結局同じような生存戦略を取ってるんですよね。それが不思議だなあと思って。こっちが頭で、こっちがしっぽ。
(佐藤) 本当だ。面白い。
(小川) 本当の頭がこっちだなんて全然思いつかない。すごい。
(宮﨑) それで、今回キマダラルリツバメは2匹見れたんですけれど、2匹ともこのしっぽのところだけ食いちぎられてたんです。これ撮ったやつですね、写真
(小川) 本当だ。食いちぎらてる。
(菊谷) 食いちぎられてますね。でも、生き残ってますね。すごく面白い。
(宮﨑) これほかの個体。これも。
(小川) 本当だ。
(宮﨑) キマダラルリツバメはシジミチョウの仲間なんですが、アゲハチョウの仲間とか、全然違うグループのチョウが、みんな同じ戦略を取っているので、何か共通のもの、仕組み、法則があると思ってるんですけど、でもこれは最適化されてるという先入観を持って考えてはいけない可能性もあるので、最適化かどうかと言われると、よくわからないですね。僕が研究しているのは細胞分裂ですけど、細胞分裂って多分、百種類以上のタンパク質が関与しているんです。でも意外と数十種類とか、それぐらいでも分裂の仕組み自体は達成できるんじゃないかなっていうのを僕は思っていて、じゃあ、ほかの百種類ぐらいは何やってるんだっていうと、恐らく異常事態に備えている…。
(佐藤) リスクを小さくするような?
(宮﨑) はい。例えば人間では卵子という一つの細胞が数十兆個に増えることで、我々の身体が出来上がると言われています。つまり、合計で数十兆回も分裂するわけです。その中で1回でもエラーが起こったら、大変なことになりますよね。だから限りなく100%を達成するために、コンポーネントをミニマムにしてエネルギーの消費量を抑えるっていう戦略じゃなくて、いろんなものを、付属品をたくさんくっつけて、で、絶対に成功するようなシステムになってるんじゃないかなあと。それでは最適化じゃない。
一同 (笑)