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(荻原) 科学技術の進歩といえば、インターネット技術の発達によって、デジタル画像が簡単に見られるようになった。わざわざ現地で見なくてもいい。現地の図書館だと、一度に出してもらえる量が限られてるんで、比較がなかなかできない。インターネットだと、画像を落とせば比較可能なんで。それでものすごくやりやすくなった。モノを見ないとわからない情報っていうのがあって。書いた人間が一緒かどうかとか。
(岩尾) 国際敦煌プロジェクトというのをイギリス中心にやってて、敦煌だけじゃなくて、中央アジアのもの全部を対象にして、ヨーロッパでも中国のものでも、同じ基準でデジタル化している。現物は見られないけど、画像で一気に見られる。ダウンロードもできるんですよ。それをフォトショップなんかで合成もできる。そうすると、これとこれ、違うとこにあるけど…
(荻原) ひっつく?
(岩尾) ひっつくという、そういうのが、できるんですね。
(金) まさに今の技術じゃないと、
(荻原) そう、ローマ字で翻字されただけではわからない情報がいろいろある。読み間違いとかもわかる。昔の研究者が必ずしも正しく読んでるとは限らないので。
(岩尾) デジタル画像といえば、写真を加工することができる。すると、普通には見えないんだけど、文字が見えるようにできる、そういうのもありますね。
(荻原) 拓本って公開されてるんですか、インターネット上で。
(武内) 例えば京大の人文研も、所蔵してる契丹の拓本を画像で一部公開してるのですけど、多くのものは自分で入手する必要がありますね。図版とかで最近は割と質のいい写真とかもありますけれど。
(岩尾) 拓本の本物と写真版とでは、どちらが使いやすいですか。拓本はでかいじゃないですか。
(武内) パソコンで処理する時は、データ化されてるほうがいいです。ただ、手元に印刷したものがないと、落ち着かないですけど。
(金) アナログ化されたカードみたいなやつが手元にあるのは重要ですよね。
(荻原) 考古学の資料だと、画像だけあっても、あまり意味ない。
(金) そうですね、結局、実際見なあかんという話になりますね。
(岩尾) 公開の仕方に問題があるということですか。
(金) 本当に360 度、あらゆる角度から観察したいですね。裏面に製作にかかわる重要な痕跡があったりするんです。専門じゃない人がやっても、なかなかその裏面のこの部分の写真を報告書に載せようという発想が出てこないんです。
(岩尾) それは、けど、もともとの話になるけど、どうやって経験を積むんですか。
(金) たとえば鉄の出土品をX 線でとったレントゲン写真を見ると、錆だけの部分と、メタルが残ってるところとがわかります。そのX 線写真と実物を見比べていくうちに、だんだんと見方もわかってきたりします。
(岩尾) やっぱり経験則なんだ?
(金) そうですね。モノをたくさん見て、自分で図面を書いたりとかをずっと続けていく感じですね。
(岩尾) デジタル時代でも、最終的にはアナログな方法で経験を積む必要があるという。
(金) そうですね。びっくりするぐらいアナログでやってますよ。
(岩尾) 手で描くんですか、こう。
(金) 手です。方眼紙の上にモノを設置して、定規の類で測り込みながら、鉛筆で図を描いていくんです。
(岩尾) じゃあ、絵が下手だったらダメじゃないですか。
(金) そう。めっちゃ苦労してるんですよ、僕。
(一同) (笑)
(金) 実測といって、本当にリアルに写実的にやるべきなんですけど、あまりに下手で、先生にはずっと「おまえの実測図面は印象派だな」と言われ。
(一同) (笑)
(金) 写実派で描いてるつもりなんですけど。
(一同) (笑)
(金) 考古学でも拓本をとるんですけど、契丹の研究では現地に直接行って自分でとったりするんですか。
(武内) やりますね。モンゴルに自然のまま置いてある資料を調査した際にしたことがあります。拓本セット持って行ってやったんですけど、慣れてないんで、難しかったですね。
(金) 例えば瓦の研究をしている人が、瓦の文様を拓本にとったり、鏡の研究者が、鏡の裏面の文様をとったりもするんですけど、僕は拓本が一番苦手ですね(笑)。
(岩尾) 一応練習はする?
(金) 実習で練習したりはするんですけど、何回やっても紙に穴があくんですよね。
(岩尾) そういうメソッドの練習みたいなのは、われわれないよね。言語学も歴史学も。
(荻原) ないね。まともな先生につければ運がよくて、いろんなこと教えてもらえるけど、実際はそうじゃないほうが多いんで。
(金) 先生からすれば、これはこうやってやるんだ、自分で盗めぐらいの感じのがあるんですか。
(岩尾) そう。だけど、メソッドは必要。拓本をとる技術ぐらいは、どこかで教えてほしいな(笑)。モノを扱うときのこの基本的なメソッドみたいなやつを、どこかで。