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(司) 数学では予想や定理にはその発見者・ 提唱者の名前が付けられるのが一般的ですね。
(千) 長い間解かれることがなく、かつ皆が面白いと思えるような予想を最初に示すっていうのはやはり秀逸なことだと思いますし、 それに対する敬意の表れでしょうね。たとえば有名なフェルマーの定理なんかも、昔からよく知られているのに、誰にも解けなくて。 その定理が解けたからといって、定理自体は現代数学にとって重要性はほとんどないものだと思われていたのですが、アンドリュー・ ワイルズという人は数学自体を大発展させることでこの定理を証明してしまいました。単発的で発展性はないと思っていたものが実は数学をものすごく発展させるもとになった。 その意味では、フェルマーっていう人は数学に大いに貢献したとも言えますね。
(岸) フェルマーの挑発的なメモのおかげで皆が必死になって取り組んだわけですしね
(笑) そして、証明の過程でワイルズがものすごい業績を上げて、そのおかげでもっとすごい予想にアタックできるようになっているわけですし。
(司) もっとすごい予想がまだまだあるわけですか。
(千) たとえば、最近解かれた「佐藤・テイト予想」なんかもすごいものだと思います。
(岸) 数学ではミレニアム問題という有名な七つの難問があります。アメリカのクレイ数学研究所が 2000 年に、それぞれに百万ドルの懸賞金をかけて発表した数学上の未解決問題です。私の分野の解析に近いものだとナビエ・ストークス方程式の問題がありますが、 絶望的に難しいという印象です。深みにはまって他のことが何もできなくなるから若いうちは手を出すなと先生方は言われますが、こういうものは変わり者がなんとなく解決してしまうのかもしれません。
(司) その七つの問題が解かれたとしても数学界にはまだまだやることはたくさんあるわけですか。
(千・岸) 当たり前ですよ~
(千) 個人的にはミレニアム問題がひとつでも解ければもちろんうれしいですけれども、あれが解けたくらいじゃ数学は終わりませんよ。 まぁ、大問題だけ残って何の進展もなくなったり、今までの成果を一通り身に付けるのに膨大な時間がかかってしまったりするなんてことが起こるかもしれませんが。
(司) かといって、中学生くらいからみんなが高度な数学を学び始めるのも無理ですし、そんなことしたら数学嫌いが増えて数学を志す人が減ってしまうかもしれませんね。
(岸) 実際には京大では数学志願者はむしろ増えているようですね。数学では定期的に大問題が解かれて話題になりますし、最近は数学者を扱ったドキュメンタリーや映画のおかげかもしれませんが。
(千) 数学という分野ではこれからもやることはたくさんありますから数学を志す人が増えてほしいですよね。
(岸) やることがありすぎて困ることはあっても、なくなることはありえないでしょうね。 その意味では、数学というのはこれからも挑戦しがいのある魅力的な分野であり続けると思います。