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(司) 物理学などでは厳密に数学的に解くことができなくて近似的でも問題ないというようなこともありますが、数学的にはやっぱり近似というのでは納得しないのでしょうか。
(岸) 近似するならするで、どの程度の精度でするかということが数学では問題になるのでしょうね。
(千) 何をもって「わかった」とするかですよね。
(岸) 近似で解けたことにするか、解けていないことにするか。実験などでは近似で問題ない場合があるとしても、そこで満足しないというところから始まるのが数学なのかもしれません。
(司) 数学というと、非実学系の代表みたいな言われ方もよくされますが、何かの役に立つとかは二の次という感じですか。
(千) 整数論のアイデアはたとえば暗号理論などにも必須になっていたりしますし、数学は社会で幅広く使われ役立っているとは思いますが、数学者自身は目の前にある問題を解決したいという欲求に突き動かされていますね。
(岸) 山があるから登るというのと一緒かもしれません。
(司) 数学者って孤独に研究しているイメージがありましたが、非常に多くのセミナーや研究会が開かれているみたいですね。
(岸) たしかに言われてみるとよくやっていますね。
(千) 岸本さんは共同研究はよくされるのですか。
(岸) 今は他の研究者とのつながりがあまりなくてそれほどやっていないのですが、これからは増えていくんじゃないかなと思っています。
(司) 文献学系ではひとつのテクストを何人かで読んだほうが解釈の可能性もどんどん増えていくので、けっこうやるんですよね。
(岸) 数学だと、同じところを別々に証明して、 いい方を採用しようというよりは、ここの証明は誰、そっちは誰みたいな感じが多いですね。
(千) 役割分担がしっかり決まっていればうまくいくのですが、何となく一緒にひとつの問題を考えようっていうのは難しいですね。勉強会なども、誰かが板書して、それを他の人が見ながら流れを追っていくという感じですね。事前にペーパーを配布しても誰も読んでこないですし(笑)
(岸) 何人かがホワイトボードの前に立って、 ああでもないこうでもないとわいわいがやがや議論をするっていうことは少ないかもしれませんね。数学の場合、ちょっとした発想の転換というか、ちょっと違う分野のアイデアを取り込むことですごい進展があったりするので、今後は違う分野の人と議論する機会を増やしていきたいですね。
(千) 整数論っていろいろな知識を必要とするので、「数学の女王」って言われることがありますね。ある分野では難しく表現されるものが別の分野ではものすごく簡単に表現できたりすることもあって、分野間の翻訳をどうやってするかというのも数学の醍醐味ですね。