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(司会) 宇宙関係の分野の日本の強さは、 世界全体で見るとどのくらいでしょうか。
(信川) まずぼくの分野、エックス線天文学という分野では、強いのが日本とアメリカとヨーロッパで、三つ巴みたいな感じです。最初に始めたのはアメリカで、いまは三拠点のどこも衛星をもっていて観測しています。ただアメリカとヨーロッパの衛星はもう 10 年を超えていて、そろそろダメになる頃です。 しかしアメリカとヨーロッパは次の衛星を計画していません。まだ 10 年以上先です。日本だけが2年後にさらに新しい衛星を計画しているので、あと2,3年たつと日本の独壇場になるかなと。
(司会) そういうときに、海外から日本の大学や研究所に移りたいという人が多く出てくるでしょうか。
(信川) うーん。日本の衛星と言っても国際プロジェクトだという考え方なので、アメリカにいても日本の衛星を使うことはできます。
(司会) それで使用料を取ったりできるんですか。
(信川) 使用料は取らないです。
(長尾) そのかわり、たとえばアメリカのグループが日本の衛星を使って良い成果を出したら、「これはアメリカのグループの人が日本の装置を使って出した結果です」という風にボンッと言える。これは日本の技術力の結晶ですみたいな。
(信川) そういうことです。世界の優秀な人たちが使ってくれるというのは日本の成果にもなるので、いくらでも使ってもらって OK です。
(司会) よくメディアでは、「アメリカの NASA が・・・」と言いますが・・・。
(信川) そこが「日本の JAXA が・・・」ですね。そういう報道が世界中で。
(司会) なるほど。
(信川) 日本は 1980 年頃からこれまでに 5 台のエックス線衛星を打ち上げています。 それがことごとくいい成果を出しています。
(長尾) 完全に世界を引っ張っている。
(村主) 太陽も強くないですか?
(信川) 太陽もいいですね。ひので衛星とか。
(長尾) ぼくの専門である近赤外天文学は、 エックス線とは少し事情が違います。今でこそ、すばる望遠鏡を使って世界的な成果を続々と出していますが、すばる望遠鏡の運用が始まったのは 2000 年頃です。1990 年代に、すばる望遠鏡クラスの直径 8 メートルから10 メートル程度の望遠鏡が、世界的にいっぱいできました。それ以前は、その半分くらいのサイズの、4 メートルから 5 メートル程度の望遠鏡が世界最大クラスでした。その頃、アメリカとヨーロッパはそのサイズの望遠鏡を持ってたんですけど、日本はまったく持ってなかったんです。岡山にある口径 2 メートル弱くらいの望遠鏡が日本最大でした。そこから、4 メートル程度の望遠鏡を作るのをスキップして、いきなり世界最大クラスにゴーンとチャレンジした。それで日本は一気に世界と肩を並べる装置を手にした訳です。
(村主) 理論ではどこが強いとかあるんですか?
(小林) 理論は、どこが強いというよりは、 みんなそのカラーが違う。
(村主) それは国レベルで?それとも個人レベルで?
(小林) たとえばアメリカと日本とヨーロッパで考えると、それぞれ論文のクオリティはいずれも非常に高いんですけど、研究のカラーで見るとアメリカはちょっと即物的な傾向があります。日本やヨーロッパはあまり即物的じゃないものも許容されるような雰囲気があります。たとえばアメリカで重力波の研究にお金をつぎ込みましょうということが決まったとする。するとみんな重力波の方にバーッといってしまう。そういうときに、日本やヨーロッパはたとえば余剰次元の研究をしていると。そういう雰囲気なんですね。
(司会) へー。意外。
(小林) あと宇宙論では、アメリカは素粒子論にかなり近い宇宙論を研究している人が非常に多い。日本やヨーロッパでは、バックグラウンドが一般相対論の人が宇宙論を研究している、というのが多い。まあ細かいと言えば細かい違いなんですけど、かなりカラーが違う。国際会議もヨーロッパでやるときとアメリカでやるときで、発表内容の傾向が結構違っています。
(長尾) 伝統的には、惑星形成や星形成は、 京大の理論グループが世界的に見て非常に強いと聞きます。
(小林) 京大の天体核研究室の林忠四郎先生からの伝統で、そういう分野は非常に強いです。一方で、一般相対論の研究も非常に強い。それは天体核研究室の二代目、佐藤文隆先生になってからですね。
(村主) 一般相対論と核物理などを組み合わせたようなシミュレーション、たとえば星の重力崩壊などは、京都は本当に強いですね。
(小林) そうそう。そういう分野は、日本がかなり先進的。
(村主) そうなるともう日本がというか、特定のグループが、師匠と弟子がという感じですね。
村主氏、宇宙を語る