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(司会) 偉大な化学者を1人挙げるとすれば、誰を挙げますか?偉大というか、 尊敬するとか、見本にしたいと思う化学者を1人挙げるとすれば。
(セドリック) アメリカのジョン・グッドイナフ先生です。彼はリチウムバッテリー分野で大きく貢献したと思います。
(司会) 江波さんは、そういう方は、いらっしゃいますか?
(江波) あえてちょっと分野はちゃいますけど、マイケル・ファラデーは、学生のときあこがれてました。イメージ能力がすごい人で、数式とか苦手だった人なんですよ。でも、実験のセンスがもうぴかいちで、実験やらせたらすごい才能示して。ファラデーには見えてたものがあるっていうか、実験センスとイメージ能力で、一時代作ってしまったというのが、すごいいいなと思ってまして、やっぱり化学は、頭よすぎるとだめってあるじゃないですか。
(齊藤) 頭よすぎたらだめなんですか?
(江波) 多分ですね、頭が良すぎると「こうなるだろう」って、思い込んじゃうのが一つと、もう一つは脳みその柔らかさというか、適当にアホだと、「絶対にこんなの起こったらだめだろ」っていうのを、アホだから思いついちゃう。(一同)(笑)
(江波) で、アホだからやっちゃう、みたいな。(一同)(笑)
(江波) そういう化学者になりたいと思ってるんですけど。ファラデーはイメージ能力を大事にしてたっていう話だったので、それはいいなって思ってましたね。
(村上) 僕はドクターのテーマが、グリニャール反応剤っていうものを使ったやつだったんで、グリニャールですね。 その人が、初等有機で習う一番基礎的な反応剤というか試薬を作ったんです。金属片(金属マグネシウム)をエーテルっていう溶媒に入れて、その後、ブロモベンゼンっていうものを入れてくと、どんどん溶けてくんですよね、金属片が。できたものは有機金属っていう、金属に炭素がくっついてる物質なんです。その発見はすごいなと思っています。
(司会) 齊藤さんは?
(齊藤) ベタなんですが、ご存じ山中伸弥教授のお弟子さんの高橋和利さんっていう人がおられるんですが、その人がやった実験が結構ええなあと。さっきの話にも出てたんですけどね、賢すぎたら多分してない(すいません)アプローチを取られて、細胞に遺伝子を入れる時には、普通は遺伝子を1個ずつ細胞に入れることが多いんですけど、たくさんの遺伝子をまとめて入れるってことをやって、まとめて入れたら細胞に変化が起きて。最初はそんな方法で細胞を初期化するって絶対無理やとみんな思ってたんですけど、そういうアプローチで、誰もしてないことをやったっていうのはすごい面白いなって感じます。だから今も普通に一緒に仕事ができて、お話してるのが、 不思議な感覚ではあるんですけど。で、 生命の起源に関しては、好きな実験はスタンリー・ミラーさんの実験っていうのが 1953 年ぐらいに、当時の地球環境を模倣したような条件で、確か水、メタン、アンモニア、水素のある還元的条件で放電させるとフラスコの中でアミノ酸ができた、みたいな実験をされたと思うんですけど、そういうアプローチで生命を作りだそうとしたっていうのは、すごいなって思います。昔から結構科学雑誌『Newton(ニュートン)』とかを読むの好きで、生命の起源がらみの話でよく登場していて、好きな化学者です。
(司会) ミラーの実験ですか。
(齊藤) それ以降、そんなに進んでないですよね、あの分野って。
(司会) 窒素でしたか、放電させて。
(村上) 炭素は要りますよね。
(齊藤) はい。炭素を含む気体を入れて、 いくつかのアミノ酸が確かにできたんだけども、今考えたらその当時の地球環境が、そんなに還元的ではないだろう、もっと酸化的だったんだろうっていうのは事実なんでしょうけど、実験のアプローチがユニークですよね。そのあと似たような実験をみんなしてるんですけども、本当の意味でのブレイクスルーはこの実験以降おきてないんじゃないでしょうか。
(司会) 今の研究はそこにつながっていくというか…
(齊藤) そうなんですよね。根本的な生命がどうやってできたのかっていうところの興味と、今存在する細胞を使って、よくわからない細胞の中身を知りたいっていう興味の両方があるんですけど。結局でも生命を理解するためには、細胞みたいなものを一から自分で、 化学物質を組み合わせてできたら、一番満足して死んでいけるのかな。(一同)(笑)
(齊藤) そういうイメージで、だからボトムアップとトップダウン両方のアプローチで研究を進めたいですね。たとえば生命の起源を探るために、人工のリポソームみたいな膜の中に何か詰め込んで、人工細胞の分裂が再現できるのかっていうアプローチもありだし、人工的に作られた iPS 細胞ってそもそも何なのか理解することも重要と思います。たとえば外から何かを加えて細胞を初期化されたっていっても、中身がどうなってるかわからないとやっぱりもやもや感があって。僕は細胞の中で秩序ができあがる仕組みを知りたいなと思います。