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坂部氏 続けて、質問コーナーに移りたいと思います。
まず最初に、「高校の卒業論文で無から有が生まれるかというテーマで宇宙創生と関連付けて書こうと思っています。論展開について御教授ください。」
水本氏 難しいですね(笑)。そもそも無って何ですかというところから始めないといけない。数学だと何もないって厳密に定義できるけど、実際の世界で何もないということはない。難しい話をすると、物理的にないというのは何か揺らぎがあるみたいなことと言われていて、そこを突き詰めて考えれば何かしらが出てくるかもしれないというのが私からのアイデアです
坂部氏 では次に、「ブラックホールの構造を詳しく知りたい」というご意見について、どうでしょうか?
川中氏 全てのブラックホールには境界となる面、事象の地平線(ホライズン)と呼ばれるところがあると考えられています。そのホライズンは球形で、その球よりも内側に入ると絶対に外には出てこられない。ホライズンの大きさはブラックホールの質量、重さで決まっています。例えば、ブラックホールの質量が太陽の質量の10 倍だとすると、その半径は30kmです。30kmより近くに宇宙飛行士とかロケットとかが近づいちゃうと絶対に外に出てこられません。それが一番シンプルな構造です。それとは別に、もしブラックホールがグルグル回転していると、ホライズンに加えて、もう一つエルゴ領域と呼ばれる面白い領域ができます。そこに入るとブラックホールからエネルギーをもらって自分自身が加速することができます。実際にそういう現象が起きているかどうか、観測的にはまだ分かっていないのですが、少なくとも理論的には、去年ノーベル物理学賞を受賞したペンローズさんがその現象があり得ることを証明しています。ブラックホールの構造としては、その二つですね。
坂部氏 ありがとうございます。次はちょっとシビアな質問になりますけど、「私の恩師に天文学者は儲からないぞと言われたんですが、天文学で飯を食っていくことは可能なのでしょうか?」
有松氏 実は、僕も高校の時に三者面談で研究者になりたいですと言ったら、天文学の研究とか儲からないからやめた方がいいよと高校教師から言われました(笑)。お金儲けを主軸に生きていくのであればあまりお勧めはしません、正直なところ。人生の目的がお金儲けの人もいれば、そうじゃない人もいるので、きっと天文学者を進路選択する人はそうじゃない人が多いんだとは思います。ただ、本当に生活できないほどお金に困ってるかと言われると、そこまでではないんじゃないかな。
藤井氏 そうですね、ご飯は食べられます(笑)。お金儲けするよりも宇宙の、このことを明らかにしたいというふうな強い気持ちがある人が、やはり研究者に多いと思います。
坂部氏 ありがとうございます。では、次に「ベテルギウスは、いつ爆発しますか?」
川中氏 いや、知りません、誰も知らないです。言えることは、誰も分からないけど近い将来、数百万年以内くらいに爆発するんじゃない、ぐらいです。天文学的には数百万年以内ってすごく近い将来なんですよ。何でそんなことが分かるかというと、ベテルギウスぐらい重い星だと寿命が数千万年ぐらいなんです。今、ベテルギウスって赤色超巨星という状態になっていて、つまり人生のかなり後半です。もう寿命は残り少ない。ただ、明日爆発するとか、来年爆発するとか、そういう予測は我々天文学者はできません。
坂部氏 では、次に行きます。「ブラックホールの中は、どのような状態ですか?」
川中氏 また同じになってしまいますけど、分かりません。何で分かんないかというと、ブラックホールの中って ホライズンの中ということですよね。ホライズンの中に入ると何も外側に出てこられないので、その中に誰かが行ったこともないし、その中から何らかの情報がブラックホールの外側に出てくることもない。だから知りようがないです。数学的には、ホライズンを突き抜けてもあまりどうってことない、というような答えが一応あるんですけれども、それを確かめた人はいないですよね。
坂部氏 では、「ガンマ線バーストはどのような方法で観測するのですか?」
藤井氏 いろんな方法で観測するのですが、それぞれの観測機器に特徴があります。宇宙のあらゆるところを広く スキャンしておいて、明るい事象を見付けたら、全世界の研究者たちにアラートを送ります。そして、視野は狭いですが深く遠くまで観測できる望遠鏡達が一気にそこをグッと攻めまして、局所的に全員で一斉に観測するということが行われています。最近では、ガンマ線バーストの特に高いエネルギーの放射機構情報を明らかにするため、アラートを即時に世界に送ることによって追観測するということが主流になってきています。
坂部氏 ありがとうございます。次に、「ブラックホールの撮影というニュースがありましたがどうやって撮影したんですか?」という質問についてどうでしょうか?
水本氏 ブラックホールは地球から見るとすごく小さいので、なかなか観測しづらいんです。基本的に望遠鏡のサ イズを大きくすると小さいものが見えるようになるけれど、1個の望遠鏡を大きくしたところで限界があるんですね。限界を超えるために地球のいろんなところに望遠鏡を置いて、それを全部つなぎ合わせて1個のでかい望遠鏡だと思って観測しようというプロジェ クトがあって、それを使ってブラックホールの写真を撮った。ですが、実際にデータ解析する時に、地球サイズの望遠鏡と言ったって全然バラバラのところにあるだけなので、望遠鏡に穴ぼこがあいているみたいな感じになっているので難しいんですね。観測したはいいけど、それをちゃんと解析して写真にするというのが難しくて、それに2年も3年もかかった。あとは、複数のグループでそれぞれ検証して、同じ結果が出て、ようやく信頼できるということで写真にしたというのが最近ニュースになっていたことでした。
坂部氏 ありがとうございます。関連した質問ですが、「ブラックホールは何個ありますか?吸い込まれたらどうなりますか?」
水本氏 何個ぐらいというのは、いっぱいあります。我々が今いる銀河の中に数千万から一億個ぐらいですね。銀 河の中心にある超巨大ブラックホールというやつも銀河の数だけあるので、もう割とありふれたというか、どこにでもあるような天体です。
坂部氏 吸い込まれるとどうなるんですか?
川中氏 ブラックホールも要するに重力でグッと引っ張っているわけですね。ブラックホールに近ければ近いほど、その重力って強くなるわけです。人間が、もしブラックホールに入っていくと、足先に働く重力と頭のてっぺんに働く重力は、めちゃくちゃ違うんです。そうすると人間は、ビヨーンと伸びます。すぐ引きちぎられると思います。なおかつ人間の横幅方向にもギュッと圧縮される力が働くわけですね。
坂部氏 では「ホワイトホールは本当にありますか?」
川中氏 ホワイトホールって何かというとブラックホールの真逆です。ブラックホールって何でも吸い込んで二度と出られないんですが、ホワイトホールは何でも外に出す。数学上の概念としてホワイトホールというのは提唱されています。それが実際にあるかというと、見た人は誰もいません。実際にあるかどうかは分からないけれど、多分ないよねというのが多くの天文学者の考え方です。ブラックホールは星が一生を終えたらできるんですけれども、ホワイトホールってどうやってできるのかということに関しては、もう誰もアイデアがないですね。
坂部氏 ありがとうございます。では、「太陽に寿命はありますか?」
川中氏 あります。太陽の寿命って何で決まっているかというと、太陽の重さで決まっています。質量から推定さ れる太陽の寿命は100 億年ですから、残り50億年です。地球に落ちてきた隕石、太陽系の天体に含まれている元素量、放射線元素の量で現在の太陽系の年齢が50億年と分かるわけですね。
坂部氏 ありがとうございます。次に皆さんにお聞きしたいのですが、「京都でお勧めの天体観測場所を教えてください。」
有松氏 先ほどお見せしたネオワイズ彗星の写真は、比叡山の山頂で撮っています。視界も開けていて、街からも 離れているので、お勧めです。
川中氏 私はしないです(笑)。
藤井氏 観測に行くと凄く暗い場所で宇宙線の観測をしますので、天の川がはっきり見えたり、南半球に行くと大 マゼラン雲、小マゼラン雲も見えます。知らないと雲があるのかなと思うのですけど、ずっと動かない雲みたいなのがあって、それが星雲なんだというふうに気付いたことがあります。
坂部氏 ありがとうございます。では次に「宇宙全体の構造や形は推測できますか?」
藤井氏 大規模構造を作るシミュレーションが行われていて、そこには、ダークマターの成分を入れないと大規模構造というのは作れないというふうに聞いたことがありますね。シミュレーションで我々の宇宙を再現しようとすると、なかなか難しいという現状になっています。
坂部氏 次は、「宇宙の果てについて知りたい」というご意見について。
水本氏 これは難しい。果てって何ですかというところから始まってしまう。我々が観測できる限界が果てなの か、それより向こうに何かものがあるのかというのは難しい話になってきてしまって答えづらい。日夜、研究が進められているところですかね。
藤井氏 今観測されているのは宇宙背景放射が138億年前に出たというものが最遠光ですけど、背景ニュートリ ノや背景重力波によって、始まった瞬間を見るという観測が目指されています。宇宙背景放射が発見された時も、宇宙は常にあるという定常宇宙論と、火の玉から始まったというビックバン論が争っていて、1964年にペンジアスとウィルソンが、どの方向に向けて も途切れないノイズがあるというので宇宙背景放射が見つかりました。宇宙背景ニュートリノだったり、宇宙背景重力波だったり、宇宙の始まりにより近く迫るというのは、まだまだ観測されていないので面白いと思います。
坂部氏 ありがとうございます。では次に「なぜ探査機などは金色なのですか?」
水本氏 あれは断熱材です。望遠鏡とか検出器を宇宙に打ち上げるので、例えば太陽の光がガンガン当たって熱く なる。そうすると壊れちゃうので断熱材で覆います。その断熱材の色が金色なのでそう見えるというものです。
坂部氏 「最高エネルギー宇宙線が来る頻度は、年によって違ったりするのですか?」
藤井氏 まだ、違いが分かるぐらいの統計量がありません、というのが正直なところですが、方向によって少し集 まっているかなというふうなところは見えてきています。15年間観測して数が1,000個しかないので、有意な変動は今のところ見られていません。例えば、銀河中心で何か爆発的なことが起こったとしても、その途中の曲がり方、最高エネルギーとはいえ、0.1度曲げられるとそれだけで光に比べて100年、200年も遅れてしまいますので、ほぼ同時に我々が生きているスケールで数値がグッと上がるということは結構厳しいんじゃないかなと思っています。
坂部氏 「オールトの雲について詳しく知りたい」というご意見もあります。
有松氏 オールトの雲は何であんなに球形に遠くに広がっているかというと、もともとは他の太陽系の惑星と一緒に共通の面をグルグル太陽の周りを回っていた微惑星と呼ばれる惑星の形成材料だった天体なんですね。それが木星とか土星とかが誕生した後に、その惑星の重力で、その面から突き放されて太陽系の遠くに吹っ飛ばされて、さらに遠くに吹っ飛ばされたところで近くの他の恒星であったりとか、銀河全体の重力の影響を受けて果ての方にグルグル、いろんな方向に球状に分布するようになった天体です。オールトの雲の天体は、もともとは惑星の形成材料だったので、それらを観測的に解明することが太陽系の起源を探る上でもす ごく重要です。
坂部氏 「オールトの雲の観測手法は、系外惑星の観測手法と近いですよね?」
有松氏 そのとおりです。系外惑星もトランジット法といって、系外惑星はグルグル回っている恒星の手前を通り 過ぎる時の恒星の光の量が、ちょっと減ることによって検出できる観測手法なんですが、星を隠す時間スケールが系外惑星の場合は数時間とか場合によっては一日近くかかったりするんですけど、オールトの天体の場合は、せいぜい1~2秒です。その代わり、星の明るさが減る量自体は、系外惑星の場合は多くても1%とか、下手したら0.01%とかなのが、オールトの天体の場合20~30%は星の光を減らすので、その意味では観測はしやすいです。
水本氏 オールトの雲に相当するものって他の恒星系にもあるんですか?
有松氏 それは実は私の博士論文のテーマだったんですが、今のところよく分からないです。系外惑星はいっぱい見つかっているし、木星みたいな天体も見つかっているのであってもおかしくないとは思うんですが、今のところ観測例はないです。将来的には観測できればいいなとは思っています。
坂部氏 では、事前質問から一つ。「宇宙の研究を志す際に高校時代にやってみるといいことや、知っておくべきことはありますか?」、「宇宙に携わる仕事に興味があるのですが、これから先の勉強で、どんな分野が得意だと有利ですか?」
有松氏 僕は、高校時代くらいは皆さんの興味の赴くままに勉強していればいいんじゃないかなと思います。とい うのも、例えば皆さんが研究者になる時に、何が最先端の研究になっているか予想するのは難しいです。だから、今、興味を持っていることに集中して取り組んでもらって、あの時本当はあれに興味があったのにやれなかった、というような後悔がないようにしてい ただくと、多分その後の人生、研究者になるにせよ、ならないにせよ一番いいんじゃないかなと思います。ただ、一つ言えるのは、高校時代の勉強は、ちゃんとしていた方がいいと思います(笑)。
川中氏 私がやっておけばよかったなと今思っていることは、もうちょっと大人の、学者さんでもいいし、先生で もいいんだけど、そういう人達ともっといろいろ話しておくこと。同級生とか1年上とか1年下の先輩とか後輩とかと話すのは楽しいんですが、ちょっと背伸びして、これってどうなっているんですか、これって何故なんですか、というのを学校の範囲とかそういうことを一切気にせずに、どんどん積極的に質問する。それで大人に食らいついて、鬱陶しいなと思われるぐらい積極的に、そういうマインドを持っていれば結構違うと思います。なので、これはもう学校で教えてくれないからいいや、というのでストップしてしまうと非常にもったいない。それは強く感じますね。
藤井氏 私は、今日みなさんが参加されている様なイベントにたくさん参加してもらうと良いと思います。こうい う機会を見付けたら積極的に自分から主体的に動いて参加していくのがいいと思います。あとは、今日紹介したような本もぜひ読んでもらいたいです。
水本氏 だいぶ話されてしまったんですけど(笑)。学校の勉強の面でいうと現代文、特に評論の読解というのは、真面目にやった方がいいと思います。私は大学入試のために現代文を結構力を入れてやったことが、今すごく役立っています。研究者って毎日、論文を読んだり書いたりするんですね。論文を読む時に、この人が何を言いたいのか、それはどういう根拠で言っているのかというのを理解しなくちゃいけない。我々の読む論文は英語なんですけど、結局は国語力で、そこがちゃんとできていないと苦労すると思います。理系で国語が得意な人とか、文系で数学が得意な人というのは、将来どんな分野に行っても困らないと思います。文系の人がAIとかの技術を応用して使いたい時に数学がある程度分かっていないと困るとか、そういうことがあったりするので、自分は理系だから国語はいいよとか、文系だから数学はいいよと言わずに、いろんなことを勉強していくのが大事だと思います。
坂部氏 みなさま、ありがとうございます。もう一つ事前に多くいただいていた質問からなんですが「研究の一番の楽しみは何ですか?」
水本氏 私だと、例えばブラックホールの周りってこんなことになっているのかな、それならこういう観測してみ たらうまくいくかな、と考えているのがすごく面白い。そういったアイデアを実際に形にしようと計画するのが一番の面白さ、一番の王道の面白さです。
坂部氏 一番楽しいことですね。
藤井氏 自分で作った検出器を使って、世界中の誰も知らないことに挑戦して一番に知ることができる、それがやはり楽しいなと私は思いますね。
川中氏 私は理論研究者なので、観測を予測したり、観測を説明したりということがメインなんですけど、その両方で言うと、まだ説明されていない観測を自分の考えたモデル、理論体系で説明できた時は嬉しいです。なおかつ予測して、それがバシッと当たるとさらに嬉しい。だから、ほら俺が言ったとおり、みたいな(笑)。
有松氏 僕は、皆さんと違って実際に星空の下で観測をするので、すごくエモーショナルな意見なんですけど、本 当に遠くの宇宙の観測をしているのに、自分が観測していると頭の上に星空が広がっていて、随分身近な世界のことなんだなという風に感じた時が、今までで一番感動的だったというか、楽しかった瞬間ですね。今回、タイトルが「遠くの宇宙、身近な研究者」ということで、タイトル回収させていただきました(笑)。
坂部氏 ありがとうございました。では、時間となりましたので、そろそろ終わりにしたいと思います。本日ご参加の皆さんに研究者を少しでも身近に感じていただけたとしたら、私達は嬉しく思います。それでは、最後に一言お願いします。
一同 では代表から。
川中氏 私ですか(笑)?我々、宇宙のあれはどうなっているかな、これはどうしたら分かるんだろう、ということを毎日いろいろ頭をこねくり回して考えています。そんなに人生とか社会の役に立たないけれども、考えていると楽しいな、人に言いたくなっちゃうな、というようなことをずっと考えています。これは私自身の考え方なんですけれども、すごく遠くの宇宙の果て、途方もなく遠い宇宙を我々が手元に持っている望遠鏡だったり機械だったり、或いは自分のちっぽけな脳みそで理解できるかもしれないということ自体がすごいことだなと思います。その魅力に子供の頃に取りつかれて未だにこういう仕事をしていると言っても過 言ではないです。
一同 (首肯)
川中氏 皆さんも、多分宇宙のことについて考えるのが好きな方、或いは宇宙を眺めるのが好きな方なんだと思い ますが、我々も実は、その気持ちをずっと忘れずに研究者になっています。皆さんも、もしよかったら、その気持ちをずっと忘れずに宇宙について想像を巡らせたり、或いは宇宙の本を読んだり、人と話したりして、どんどん宇宙に興味を持って、我々の研究のことも応援していただければ、すごく嬉しいです。
写真3:オンライン向けに洋服の色を工夫してくれた登壇者のみなさん
写真4: イベント当日は編集部も会場・オンラインスタッフとして全員参加しました(撮影用に脱マスク)。左上から西田(編)、中村(編)、坂部さん、水本さん、藤井さん、有松さん、平島(編)、門脇(編)、川中さん、渡邉(編)。
図4:イベントに参加した高校生の学年分布
写真5: イベントに協力下さった登壇者・ファシリテーターのみなさんのおかげでとても良いイベントとなりました。最後に会場にて誌面用の写真撮影(撮影用に脱マスク)
図5・6: 参加者へのアンケートの結果から。今回は、宇宙にかなり詳しい高校生も参加してくれましたが、他のテーマでもイベントの開催を希望する声が聞かれました。