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坂部氏 京大白眉オンラインサイエンスカフェにようこそ。「遠くの宇宙、近くの研究者」というタイトルで、遠くにある宇宙を研究している研究者の皆さんは、どうやって宇宙の研究をしているか、普段どんな生活をしているか、なかなか聞けないような話をしていただき、研究者をもっと身近に感じていただけたらなと思います。私達は京大の白眉プロジェクトに所属する研究者です。私はファシリテーターを務める農学研究科の坂部と言います。よろしくお願いします。では、さっそく有松さんの御発表をお願いします。
有松氏 白眉センター特定助教の有松亘といいます。専門は、太陽系の天体を観測する太陽系天文学です。その一環として星空を動画で撮影するという研究をやっています。
私が天文学者を志したきっかけは、中学生時代くらいから天文少年だったからです。月間天文ガイドという、アマチュア向けの天文雑誌があるんですが、そこに、読者の天体写真月例コンテストが催されていました。当時アンダー18という18歳未満の人だけ参加できるコンテストがあって、そこでよく入選していました。中学2年の時、大人の部も含めてその月の最優秀作品になったんですけど、当時は、口径10センチの屈折望遠鏡にデジカメを付けて観測、撮影をしていました。
十数年前に天文少年だった私が今何をしているかというと、相変わらず同じようなことをしています。これは実際に沖縄県宮古島というところで観測をしている様子を撮ったものですが、未だに、レンズの口径28センチという小さな望遠鏡にCMOSカメラを接続して星空を観測しています(本誌表紙写真参照)。
何でこんな代わり映えのしないことをしているかというと、私の研究ターゲットに関連しています。太陽系には、太陽の周りを回る、地球を含む8つの惑星、5つの準惑星、それより小さい小天体、小惑星や彗星が、大体100万天体ぐらい発見されています。私はこれにとどまらず、より外側にあるオールトの雲と呼ばれる領域を観測しようとしています。
オールトの雲というのは、既知の太陽系を取り囲むように分布している天体の群れで、天体の数としては1兆を超えると考えられています。つまり私は、今見つかっている天体よりも遥かに多い天体の集団の観測をしようとしています。
もともとオールトの雲は、こちらの写真に示すようなほうき星、彗星の故郷として提唱された天体群です(写真1)。これは、京都市で去年撮影したネオワイズ彗星という彗星の写真なんですが、彗星の尾の一番先っぽには、核と呼ばれる天体があります。これは直径1km ないし10kmぐらいの小さな天体なのですが、水と有機物でできている塊なので、地球へたまにぶつかったりして地球表面への水や有機物の貴重な供給源になると考えられています。
こうした彗星の核は、太陽系の外側から頻繁に飛来してきているので、恐らくは故郷として太陽系の果ての方にオールトの雲というものがあるだろうということが、70年以上前から言われているのです。よってこのオールト天体の観測ができれば太陽系の全体像の解明が一気に進むと考えられています。
しかしこのオールトの雲の領域での天体の発見例というのは、今のところありません。なぜならば、あまりにも地球と太陽から遠い天体ばかりなので、すごく大きな望遠鏡を使っても直接オールトの雲の天体を捉えることは不可能だったんですね。
そこで私は新しい観測のアイデアを考えました。オールトの雲の天体は太陽系の果ての天体とはいえ、他の惑星と同じように空をゆっくり移動しているんですが、たまに背景の明るい恒星の手前を通り過ぎて恒星の光を覆い隠すことがあります。これは掩 と呼ばれる天文現象で、この瞬間に恒星の光が隠されて消えるという現象を観測できれば、直接は見られないオールトの雲の天体の観測ができるんじゃないかと考えたわけです。
ここで問題になるのが、このオールトの雲の天体が背景の恒星を隠す時間というのは本当に一瞬で、どんなに長くても1~2秒程度だと考えられています。普通の天体観測装置って、長い間シャッターをあけて暗い天体を捉えるということを主にしているので、1~2秒ぐらいの光の変動を捉えることができなかったんです。
そこで、私は星空を動画で観測する装置を作ればいいんじゃないか、というふうに考えたわけです。そうして作ったのが、最初に紹介した小さな望遠鏡のシステムです。
私は、観測条件の合う沖縄の宮古島に、この小さい望遠鏡を2台設置して観測を行っていました。この観測システムを用いて、他の観測装置と比べて史上最も多くの恒星を、同時に動画で観測することに成功しました。だんだん科学成果も出てきていて、このまま観測を進めれば恐らく史上初めてオールトの雲の天体が恒星の手前を通過する様子が検出できるのではないかと考えています。
というわけで、研究のまとめですが、私としては、太陽系の果てに何があるのか、そして、今まで観測されてこなかった動的な宇宙には、どんな世界が広がっているのかについて、これからも探求していこうと思います。
宇宙というのは非常に広大無限で多様な天体がいっぱいあるので、誰にでも新たな研究アプローチを見付けるチャンスがあるすごく将来性の高い分野だと思っています。皆さんもぜひ興味がありましたら大学に入って研究していただければと思います。
坂部氏 有松さん、ありがとうございます。観測の現場の非常にリアルな様子が伝わったんじゃないかなと思います。
写真1:2020年に京都市内から撮影されたネオワイズ彗星