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坂部氏 続きまして川中さんお願いします。
川中氏 川中宣太です。専門は理論天文学、宇宙物理学です。例えば望遠鏡を覗いて星や惑星を見るだとか、或いは大きい望遠鏡や人工衛星を使ったりして夜空、宇宙を観測するという方法も天文学の研究なんですけれども、私はこれらを実際に使ったことはありません。理論天文学というのは数式を扱ったり、或いはコンピュータを駆使することによって宇宙で起こる現象を探るという研究です。ただ、観測と全然無縁ということもなく、観測データを用いて自分の理論を構築したり、理論を用いて将来、観測でどういう現象が見えるかを予測しています。
写真2は、日々、研究している現場の一つの例なんですけれども、これはイスラエルにいた時に、同僚のイタリア人とエクアドル人と一緒に数式をホワイトボードにダーって書いて、あれがこうなって、こうなっているというふうに議論した時の写真です。これが、普段やっていることと言っても過言ではないですね。数式がいっぱい書いてありますね。
ところで、宇宙と聞くと、夜空に広がっているたくさんの星というのが皆さんの宇宙のイメージだと思います。私の研究対象はこういった星々が一生を終えた後の姿です。星は普通に輝くのをやめた後の方が、よほど激しく、なおかつ派手な現象を引き起こすことが分かっています。だからこそ私も、そういうのを研究していて非常にエキサイティングというか、面白いです。
例えば、白色矮という天体は、太陽の8倍以下の質量が軽めの星が一生を終えた後の姿です。質量は太陽程度なんですけれども、大きさが地球と同じぐらいなので密度が非常に高い。例えて言うならば、角砂糖程度の大きさで車1台程度、1トンぐらいの重さを持っています。これだけでもすごいんですけれども、まだまだすごいのが出てきますね。例えば、太陽の8倍以上の質量の重い星が爆発した時の現象を超新星爆発と言います。この爆発のエネルギーって非常に凄まじくて、最大光度は銀河1個分にも匹敵します。銀河1個には星が1,000億個ぐらいあるんですけれど、それと同じぐらいの明るさに輝いたりするんですね。しかも、その瞬間だけ明るいのではなくて、その爆発の残骸から高エネルギーの粒子、原子核とか電子とか、そういった粒子が大量に放出されています。その超新星爆発が終わった後、中心に残るのが一つは中性子星、これは主に中性子でできていて、非常に強い磁場を持っています。磁石の力が非常に強くて1兆ガウス(G)以上、人間が普通に家庭用で使っている磁石は、大体1,000Gくらいですから、それに比べると遥かに強いですね。これは、密度も非常に高いです。質量が太陽程度なんですけれども、半径が10km 程度なので角砂糖1個分で重さが世界中の人間の体重の合計程度、数億トン、こんなとんでもない天体です。こういうのも実は宇宙にはワラワラいます。
太陽の20倍以上の質量の、もっと重い星が一生を終えると、あまりに重力が強いために光すらも脱出できないようなブラックホールという天体が出来上がります。ブラックホールの側に星がある場合、星の表面のガスがブラックホールの重力に引かれて吸い込まれていきます。実は、実際に宇宙にあるブラックホールって、ガスを吸い込んで、X線で明るく輝くという現象を引き起こしています。私は、白色矮星、超新星爆発、中性子星、ブラックホールといった、星が一生を終えた後の姿を理論的に研究しています。
私が知りたいことというのは、星とかが一生を終える時に、或いは終えた後、どのような振る舞いを見せるのかという天文学的な興味、また、非常に高密度高エネルギーで磁場も強い、或いは重力も強い、そういった極限の環境下でガスとか物質や粒子、或いは光が、どのように振る舞うのか、その様子をどうすれば観測で確かめられるのか理論で予測する、そういった興味があるんです。あと、宇宙が示す多様な現象は、いったい人間の頭脳でどこまで理解できるんだろうという、宇宙で起こっていることを全て人間が理解できるのかなという、そういう哲学的な興味もあります。私からは以上です。
坂部氏 ありがとうございます。
写真2:理論天文学の研究風景の一例