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坂部氏 では、最後に水本さんお願いします。
水本氏 水本岬希といいます。大きな望遠鏡を使って宇宙を観測するということをやっています。私が天文学者になろうと思ったきっかけですが、中学生の時の理科の授業で、星の一生について勉強したんですね。それが私にとってはすごく衝撃的で、星って夜空を見上げたらいつでも光っているもの、それ以上でもそれ以下でもない、というイメージだったのが、生まれるんだとか死ぬんだとか。そういうのがすごく衝撃的でした。それで、天文学を勉強したらこんな途方もないことをまるで見てきたかのように知ることができるということに感動して、これは面白そうだなと思って天文学者になろうと思って、そのモチベーションのまま今まで研究をしています。
研究テーマは銀河の中心にある超巨大ブラックホールです。我々が知る限り、全ての銀河の中心にはブラックホールがあることが分かっています。ブラックホールを見ると何が面白いのかというと、ブラックホールはすごく重くて重力が強いので、それに引きずられて物がすごく速く動いたり、すごく派手な動きをします。例えば、温度が1億度を超えているとか、秒速10万kmでものが動くとか。こういうのを観測しようと思うとエネルギーが高い光で観測しないといけないということでX線を使った観測をしています。
今ここに示しているのが、ブラックホールの周りで何が起こっているかというイメージ図です(図3)。X線でこういうのを見たいのですが、宇宙からやってくるX線って全部大気に遮られてしまうんですね。観測するにはそれでは困るので望遠鏡にX線を観測できる装置を載せて、それを衛星にして打ち上げるということが必要です。たとえばXRISM衛星というのが2022年度に日本から打ち上がるんですけど、こういうものを使って観測しようということをしています。
こういう望遠鏡を使うと、観測している天体からどんなX線が来ているのかというのが分かるんですね。それだけ見ても何のことだか分からないんですけど、そこから量子力学、電磁気学、あるいは相対性理論、そういう物理学の知識を使うと、ブラックホールの周りでこんなことが起こっているに違いないというような絵を描くことができるんですね。研究者の頭の中で、こんなことが起こっているのではないかということを考えることができるわけです。
望遠鏡で、どんな光が来るのかを観測して、それを人間の叡智を使って宇宙でこんなことが起こっているに違いないと解き明かすというのが、観測的な天文学の醍醐味というか一番の面白さだと思います。
X線以外にも、地上にある望遠鏡を使って可視光とか赤外線とかで観測したりしています。例えば、京都産業大学にある望遠鏡を使ったり、京都大学が岡山に持っている望遠鏡を使ったりとか、あるいは、ちょっと遠出してチリの山奥の岩石砂漠みたいなところで大きな望遠鏡を使って観測したりしています。
観測的な天文学をしているわけですけど、私の場合だと超巨大ブラックホールというテーマがあって、そこではこんなことが起こっているんじゃないかなというのを考えるわけですね。そのアイデアを証明するためには、こういう望遠鏡を使って、こんな感じの観測をして、こんなデータが取れればいいだろうと考えるんです。それで実際に観測をしてみると、ほら、やはり思ったとおりだってなることもあれば、何か全く見当外れ、全然予想外のことが起こったりすることもあるわけですね。予想外のことが起こると、それはそれで面白くて、自分が考えてもいなかったことが実際に宇宙で起こっているってことなのですごくワクワクしてくるわけです。あとは、最初のアイデアとは全然関係ないけれど、何か面白そうなものが見えてきたぞというのがあったりするんですね。こういう時もワクワクするわけです。こういうのが観測的な天文学の面白さですね。
坂部氏 みなさん、ありがとうございました。
図3:銀河の中心にある超巨大ブラックホールの想像図(Credit: 京都大学)