シリーズ白眉対談13「言語多様性と国際語」(2018)
登場人物
司会・編集:ニューズレター編集部
登場人物と研究課題
Nathan Badenoch 特定准教授 ―『多様性と対応性—言語からとらえた地域の転換期』
Bill Mak 特定准教授 ―『東アジア・東南アジアにおける古代インド天文学の歴史的伝播』
千田 俊太郎 特定准教授 ―『パプア諸語および朝鮮語』
藤原 敬介 特定助教 ―『現代語から死語を復元する—チベット・ビルマ語派ルイ語群を例に』
自己紹介
(HK)今日は特に言語多様性と国際コミュニケーションに関連して特別な座談会です。では順番に自己紹介をどうぞ
(BM)五期のビル・マクです。香港うまれのカナダ人です。学部は言語学で、サンスクリットが専門でしたけど、今はアジアにおける古代天文学を研究しています
(TS)千田です。言語学者です。パプアニューギニアのシンブー地方の諸言語を研究しています。それと朝鮮語もやってます。よろしくお願いします
(NB)一期のネイトです。本物のエスペランチストというわけではないです。アメリカ出身で、東南アジア、特にラオスの言語と社会を研究してます。今日は何がおこるかわかりませんけど、英語か日本語で何か言えるといいんだけど
(HK)で、七期の藤原です。バングラデシュやビルマ、インドのチベット・ビルマ系諸言語を勉強してます。京都大学や大阪大学でエスペラントも教えてます
言語の多様性
(HK)いきなり大きなテーマですけど、言語の多様性とは何でしょう
(BM)エスペラントからみた言語多様性といえば、共通語をつくって、でもみんな自分の言語は大切にして、平等な立場で相互理解しましょうというものです
(HK)色々な言語や文化を背景とする人々が平等な立場にあるというのがエスペラントがもっとも強調する理想ですね。そして私にとってエスペラントが心地よいのは、エスペラントの間違いにわりと寛容であるところですね。エスペラント界では誰もが初心者だったし、ずっと平等な立場なので、うまくいくんじゃないですかね
(BM)でも私の経験では、うまくいく時も、ダメな時もありますね。たとえば香港で大会をしたとき、北京からのチームと香港からのチームがいました。いつも口論になりました。「わたしたちは「中国人」なんだから北京語をはなすべきだ」というのです。でも、おかしいですね。香港人は広東語をはなすわけで、北京語は外国語ですよ。エスペラントが共通語であるべきだと習ったはずですよ。なのに彼らは反対しました。エスペランチストなのに。人々の考え方のちがいというものが、表面的な言語のちがいとは別に存在します。共通語は役にはたちますけど、あらゆる問題を解決するというわけではないのです。世界大会や国際青年大会*1でさえ、みんな共通語を話しているはずなのに、みながみな仲良くしているわけではない。もちろんザメンホフが夢想したことは美しいですし、コミュニケーションにおける理想主義のおかげで、エスペランチストは概して友好的ではあるのですけども
(HK)エスペラントはザメンホフの予想をこえて成功したともいえますね

*1 世界大会とは、世界のどこかで毎年開催されているエスペラントの大会のこと。1905 年にフランスで第 1 回大会が開催され、2017 年には韓国のソウルで第 102 回大会が開催された。国際青年大会は、世界大会の後で開催される若者中心の大会。2017 年はトーゴのアネホで第 73 回大会が開催された。またマクは 2000 年に香港で第 51 回大会を主催した。