シリーズ白眉対談09「夢」(2015)
登場人物
司会・編集:ニューズレター編集部
登場人物と研究課題
石本 健太 特定助教 「精子遊泳ダイナミクスの流体数理」
上峯 篤史 特定助教 「新しい石器観察・遺跡調査・年代決定法に基づく前期旧石器時代史」
榎戸 輝揚 特定准教授 「宇宙X線の超精密観測で挑む中性子星の極限物理」
林 眞理 特定助教 「ヒト体細胞の初期がん化における染色体不安定化プロセスの解明」
山吉 麻子 特定准教授 「RNAエピ ジェネティクスを支配する新規遺伝子制御法の開発」
越川 滋行 特定助教 「多細胞生物の模様形成機構を構成的に理解する」

自己紹介
(石本) 本日は「夢」をキーワードに皆さんの思いや考え方を通じて、白眉研究者の共通点や多様性に迫っていければと思っています。どうぞよろしくお願いします。遅くなりましたが、私は数理解析研究所所属で白眉6 期の石本といいます。流体力学を使って生物の運動を理解しようという理論的な研究をしています。
(上峯) 6 期の上峯です。人文科学研究所でお世話になっています。考古学が専門で、私たちと同じ生物種であるホモ・サピエンスが日本列島にやってきたときに、日本列島にはホモ・サピエンスではない、原人とか旧人がいたのかいなかったのか、無人のとこにホモ・サピエンスが入ってきて現在に続く文化を作ったのか、先行する人類がいて、それと何らかの関係を持つかたちで今の文化ができたのかを考えています。
(榎戸) 榎戸輝揚です。僕は理学研究科の宇宙物理学教室の所属で、専門はX線を使った宇宙観測です。ブラックホールとか中性子星とか、極限的な天体の観測をやっています。その中でも、中性子星という高速で回転するとても密度の高い星を調べていて、なかでも磁場の強いタイプの種族(マグネター)が本当に存在するのかを調べています。宇宙の観測から自然界に発現してる極限的な物理環境を見に行くっていうことを研究しています。
(林) 6 期の林眞理です。専門は生物学で、もうちょっと細かく言うと、分子細胞生物学になりますかね。今、白眉でやろうとしているのは、ヒトの正常な体の中にある細胞がガン化していくときの一番始めの段階で、どんなことが起きているのかっていうのをやりたいなというふうに考えてます。
(山吉) 6 期の山吉です。理学研究科の化学教室にいます。居室はiCeMS にあります。もともと化学畑で、ずっと遺伝子の研究をしていました。遺伝子を有機化学的に合成し、医学的・生物学的分野で応用する研究をしてきました。最近、その遺伝子の中でもmicroRNAと呼ばれる小さな遺伝子が色々な働きをしていることがわかって、細胞の中のmicroRNA を自分で作った人工遺伝子で狙い撃つようなことをやっています。
(越川) 5 期の越川です。多細胞生物の模様形成機構をやっています。具体的には、模様があるハエを使って、その模様がどういうふうにできるかということをやっています。分野としては、進化発生生物学ということになります。
子供の頃の夢
(石本) 「夢」対談ということで、本当は七夕の日にやりたかったんですけども。
(越川) 七夕?
(石本) 七夕。
(越川) そうか。願い事をするから。
(石本) さっそく夢ということで、昔、例えば七夕の短冊に書いた夢でもいいですし、あるいは子どもの頃の文集で書いた将来なりたい夢だったりとか、そういうのを少しお伺いしたいなと。
(越川) 僕、少なくとも幼稚園のときに、幼稚園便りみたいのに出たやつは鮮明に覚えてて、自分、なりたいと思ってなかったんだけど、多分、こうやって言ったら受けがいいっていうことを意識して、宇宙飛行士って答えてました。なりたいと思ったことは一度もないんですよ。でも、何となくそのときの雰囲気とか、周囲の期待からして。
(林) 賢い子ども(笑)。
(越川) 受けがいいみたいな。本当は虫が好きだったわけだから。でも、虫なんて言ったら、ちょっと、えっ、て感じになるじゃないですか。多分、お母さん方はそんなの嫌いだから、と感じ取ったか何も考えてなかったかわからないけど、そう答えちゃったのは覚えてます。あとで別になりたくないのになと思ったのは覚えてます。
(山吉) すぐ思ったんですか、なりたくないって。
(越川) どれだけ大変かとか、そういうアイデアも別になかったと思うけど。
(林) そんなのはいちいち考えないですよね。
(越川) 子どもですからね。
(石本) 榎戸さんは宇宙飛行士になりたいと思わなかったんですか。
(榎戸) 僕、宇宙飛行士にはあんまりなりたいと思ってなかったみたいですね、当時。宇宙には興味あったみたいですけどね。
(越川) 子どもの頃は何になりたかったですか?
(榎戸) 中学生の前に何になりたかったのかよくわかんないな。地下鉄の運転手さんって多分書いてたと思うけど。あんまり中学生の時に、何をやりたがってたか、よくわかんない。
(林) 何て書いたやろう。もしかしたら、研究者って書いてたかも。
(越川) でも、それは家庭環境は関係あるんですか。
(林) そうですね。一応、父が研究者だから。
(越川) でも、そう言ったら喜ぶとかあるんじゃないですか(笑)。
(林) あったんかな。でも、これ多分、夢ですらなくて、俺はこのまま育っていったらみんな研究者になるんだって思ってたんですよ、ちっちゃい頃は。
(上峯) 当たり前にね。
(山吉) 大人はみんな研究者みたいな。
(上峯) 家業的なね。
(林) そうそう。
(越川) 家業(笑)。
(林) だから、特に深く考えずに、もう中高ってなっていったような気がしますね、どっちかっていうと。でも、あえて夢って言われると……夢、難しいですね。
(山吉) 小学校の文集に、自分の夢はピアノの先生って書いたことを覚えています。それは単純に、そのとき習ってたピアノの先生が美人で憧れていたから(笑)。でも、林さんも仰ったと思うんですけど、身近にいる大人の影響って、すごく受けるんですよね。その後は、洋菓子屋さんの店員さんが可愛くて、洋菓子屋さんとか。単純なもんです。
(上峯) 僕、夢は幼い頃から何かの博士だったんですよ。スポーツ選手とかじゃなくって。
(越川) 博士へのあこがれがあったんですね。
(上峯) 最初は恐竜博士で、田舎で育ったので虫博士の時期もあって。それがいつしか歴史に変わって。
(越川) そっち系だったんですね。
(上峯) 博士系でしたね。賢いわけでも何でもないんです。勉強してるわけでもないんですけど、そういうものにあこがれがあったのかな。
(越川) ご出身どちらでしたっけ。
(上峯) 奈良県の山添村っていう、超田舎です。
(越川) でも、奈良っていう地理的な影響ももしかしたら……
(林) 古墳がありそうな。
(山吉) 信号が無いんでしょう?
(上峯) 信号ないです。
(越川) 信号はないけど、遺跡はある(笑)。それ、影響受けるだろうな、絶対。
(上峯) ほかの土地に住んでる人に比べれば、考古学とか歴史学者っていうのが選択肢に入りやすいのかな。何それ?ってなりにくい。
(越川) みんなが知ってる職業の一つではあるわけですね。
(林) 夢ね。難しいな。
( 榎戸) 夢も変わってくからな、徐々に。
