シリーズ白眉対談06 化学(2014)

登場人物

司会・編集:ニューズレター編集部

今回は白眉研究者の中から 4 人の化学者を選んでここに来ていただきました。 日頃どんなことを考えながら研究に取り組んでいらっしゃるのか、お話を伺いました。

登場人物と研究課題

江波進一 特定准教授 『独創的な手法による大気環境化学における界面反応の本質的解明』
タッセル セドリック 特定助教 『ペロブスカイト型構造を有する混合アニオン化合物の合成および評価』
齊藤 博英 特定准教授 『シンセティック・バイオロジーを活用した細胞機能制御技術の開発』
村上 慧 特定助教 『硫黄元素の特性を生かした新規有機分子構築法の創生とその展開』

左から齊藤氏、村上氏、江波氏、タッセル氏

研究紹介

(司会) まず、ご自身の研究分野とその内容について紹介して下さい。江波さんはいかがでしょうか?
(江波) 僕の研究分野は物理化学になります。化学反応や物理現象を分子レベルで理解しようっていう、どっちかというとメカニズムそのものに興味を持っています。その中で僕が特に興味があるのは、大気環境や生体内の界面で、そういう境界相で起こる化学反応なり、物質の挙動みたいなものに興味を持って研究しています。
(司会) セドリックさんはいかがでしょうか?
(セドリック) 私の専門は固体化学で、 新物質を作って、どんな物性があるのか、何に使えるのかを研究しています。 たとえば触媒、超伝導などに試しています。
(司会) 新しいものを作るということですか?
(セドリック) 新しいものを想像してから、いろいろな粉末を混ぜて、焼いたりして合成しています。
(司会) 齊藤さんはどうですか?
(齊藤) 多分、私、化学ではないような気がするんですけど。(一同)(笑)
(齊藤) 今日、ここにいていいのかっていうのが、ちょっと疑問はあるんですが…。一応化学の領域でいうと生化学になるのかなと思うんですけども、分野的にはシンセティックバイオロジー、日本語では合成生物学といわれる分野に近いです。それで興味があるのは、細胞が様々な化学物質や化学反応からどうやって構築されるのかという原理です。そもそもどうやって細胞ができるのかとかわからないですよね。iPS 細胞での初期化のメカニズムもまだよくわからないことが多いし、そういうよくわかんないものを、 細胞を構成する要素を元に、一からボトムアップして作っていくアプローチで理解したい。その理解をもとに、いろんな細胞を精密に制御して、有用かつ面白い技術を開発したいっていう興味を持って研究しています。
(司会) 生化学というのは、細胞の研究を化学の視点でやっていくということですか。
(齊藤) そうですね。特に僕の場合は核酸の一つ、RNA という分子を使ってるんですけども、それを使って細胞の中の化学反応を制御することで、その細胞の運命を制御するとか、その細胞のでき方を理解したいとか、そういうアプローチで研究しています。
(司会) 村上さんはどうですか?
(村上) はい。僕は有機化学という分野でして、有機化学って何かっていうと、 多分セドリックさんの無機化学とはある意味対照的な立場だと思うんですけど、炭素とかさまざまな元素をつないでいって、ものを作るんです。薬だったりとかプラスチックだったりとか、大体身の回りにある有用なものは炭素でできてます。そういう大事なものは絵(化学式) ではいろいろ描けるんですけど、実際にどうやって皆に提供できるよう作るかってのはすごい難しい。簡単に、安く、大量にもの(化合物)を提供できる反応っていうものが有機化学(合成)では目標ですね。しかしこれだけでは、イノベーションは産まれないので、自分が開発した反応で、これまでの方法では作れないものを自由自在に作りたいというのが理想です。この目標と理想が両方かなうような新しい反応を開発して、皆さんの役に立つ薬であったり、材料であったりを新たに提供したいというところに興味をおいて研究してます。

きっかけ

(司会) ところで、ご自身が今の分野を選ばれたきっかけみたいなのは、どういう感じだったのでしょうか?
(江波) 僕は工業化学科の出身なんですけど、3回生に学生実験で有機化学、 物理化学、無機化学、分析化学、生化学を一通りやるんです。結構みっちり 1年間、やるんですよ。それで進路を選びなさいっていうことなんですけど、 それで、物理化学が一番面白かったっていうのが一つと、あと、物理化学の授業がすごく面白くて、熱力学とか化学動力学とか。腑に落ちるのが好きで、 面白いなと思って。村上くんの前で言うのもなんだけども、有機化学、何なのか、あんまわかんない部分があって、(一同)(笑)
(江波) 有機化学の教科書で、ある反応があって、「溶媒が何十%」の「何十%」 の意味がすごい気になるんですよ。この場合は温度 40 度、で、この触媒を使うとこういう反応が起こるってしか書いてないんですよ。それでもう、こういうものができるって覚えなさいみたいな、感じなんですよね。けど、何でそれ 40 度なのか。それは活性化エネルギーだけの問題なのか、高すぎちゃだめなのかとか、あと、何で 40%、例えば 35%だと進まなくなるのかとか、 なぜ?って思っちゃう(笑)。
(村上) 例えば、お酒のエタノールの濃度が、あれでなぜおいしいのかとかそういうレベルで、まあ、おいしいからいいじゃない、みたいな。
(齊藤) できればいいってことね。
(村上) ま、そうですね。だからその裏に、すごく深い化学が広がるんであれば興味が出ますけど、別に、トライアンドエラーで出て、それが普遍的な原理を示さないんであれば、あんまり興味がないですね。ものを作るときは、その微妙なエネルギー差(活性化エネルギー)の勝負なんですよね。それはものによっても違うし、それぞれの反応に応じて、いい条件があって、それを探したらいいんじゃないっていうのがありますね。
(江波) なるほどね。
(司会) 村上さんはどうですか。どういったところから、有機化学に?
(村上) 有機化学ですか。そうですね、 僕はもともと物理とか数学がすごい好きだったんですが、全然センスがなかった。見てても何も思い浮かばないんですよね。言われたことは一通りわかるけど、だから自分でこれやってみたいとか全然出てこなくて。ただ有機はこれやってみたらどうなるんだろうとか、 こんなもん作ってみたら面白いかなとか、そういうのがあったんで有機を選んだってのはありますね。
(江波) 試せるもんね。目で見えるよね、 結果が。
(齊藤) 物理化学が嫌いやったからとかではないっていう。(一同)(笑)
(司会) セドリックさんはどうですか?
(セドリック) 皆、きれいに説明したけど、僕はばかかもしれないけど、子供の頃、建てることがめちゃ好きでしたからよくレゴで遊んでいました。それがあって化学研究者になる夢を持っていました。物理化学の先生にもなりたかったが大学に入ってから、実験を体験したら、 やっぱり研究者になりたいと分かりました。有機科目の成績が結構良かったです。 でも有機のにおいが強く、ガマンできないから無機を選びました。(一同)(笑)
(司会) 齊藤さんはどうだったのでしょうか?
(齊藤) 僕もともと、宇宙の起源とかが好きで、宇宙物理に行こうと思ってたんですよ。で、宇宙物理に入ろうと思って、 で、行って授業受けても全く相対性理論の授業とかがわからず、それでもうこれではめしは食えないと思って、さすらう 1、2回生の生活をすごしてたときに、 授業で延々とですね、利根川進先生っているじゃないですか、利根川さんのビデオを、担当の先生が何もしゃべらんと流し続ける授業があって、(一同)(笑)
(齊藤) ほんまに。全く先生しゃべれへんで 60 分そのビデオ見てて、何やこれ、 と思って見てたら結構面白くて。その細かいところはよく覚えてないけど、利根川さんが分子生物学がとても面白い、分子生物学者は、人生をコントロールできる職業だとかいって熱弁しておられる。 で、宇宙の起源に元々興味があったので、 分子生物で人生をコントロールできて、 生命の起源がわかれば面白いと思って。 生命の起源とかやるにはやっぱり化学反応を理解する必要があって、化学生命工学科っていうとこにいきました。
(司会) そのビデオは興味ありますね。(一同)(笑)

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