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(山道) テーマの普遍性っていう話なんですけど、ヒトの分子生物学って個別性が強いけど役に立つ。例えば薬を作るのに物質を知ってるのと知らないとでは全然違う。でも、生態学の個別性っていうのは、例えばミズタマショウジョウバエと別のショウジョウバエで何が違うかみたいなテーマは、軽んじられがちなんですよね。やっぱり、われわれが人間っていう個別の種だから、人間に近いほど個別のテーマでも価値があるという気がしますね。
(加賀谷) それ、人間に近くなるとっていうか、例えば普遍性を意識して文章を書こうとすると抽象化するじゃないですか。詳細を省く言い方にしてもですけど。そうすると、例えばザリガニの学名入れないで、最初イントロを書き始める。
(越川) そうですね(笑)。
(加賀谷) タイトルに入れない。
(越川) タイトルに学名入れない?
(加賀谷) 論文誌によっては入れない。イントロでも序盤は学名入れないで最後のほうにちょろっと入れる。でも、そういう書き方すると、ほかの分子生物学者の人が、そう書くと何か人間意識してるよねみたいに言われるんですよ。いや、いや、違うっす(笑)。普遍ですみたいな。
(一同) (笑)
(加賀谷) でも、そういう普遍性を意識してても人間を意識してるみたいに思われる。人間って、でも単にヒトでしょみたいに捉えるか、この世界をそもそも認識している存在として、普遍的な存在みたいな感じで捉えるかだったと思うんですけど。
(越川) そうですね。人間っていうのは、僕らは人間だから人間のことを忘れることはできないので、ある種、非常に僕らにとって特別な位置にある動物だと思うんですよ。僕ら自身だから。だから、そういう意味ではザリガニと僕ら自身っていう関係の中でも既に、ザリガニをやってるだけで普遍性は生まれてるような気がしますけど。でも、メディカルな人たちはあんまりそう見ないから、人にひきつけて書いてるように捉えるのかもしれないけど。
(原村) 人と関係しない研究とかあるんですか。
(越川) ほう。それは結構クリティカルですね。例えば分類学の研究なんかだったら、例えばある蚊の種類がいて、この蚊と剛毛の数が2 本違うと。人間関係ありますか。もちろん記述してるのは人間だけど、
(加賀谷) 進化的につながってると考えればですよ。
(越川) つながってはいますけど。
(山道) あるいは人間を含む地球上の生物とは全く別の起源を持つ生物が存在したとしたら、それを対象にした生物学は人間の理解に役立つのか。
(原村) 人間型じゃない宇宙人を調べるのは人間の役に立つのか。
(越川) それ、めちゃくちゃ役立つと思いますよ。それはそう思いませんか。宇宙生物を見つけるっていうのは生物学の夢の一つですよ。N=1 がN=2 になる11 んですから。
(一同) (笑)
(越川) そうですよね。このタイプじゃないものがあったら、
(原村) そうだったら、蚊の分類の研究も一緒なんじゃない? っていう話で。
(越川) そうかもしれないですね。
(一同) (笑)
(越川) でも、何かその普遍性が高そうな疑問と、高そうじゃない疑問はあるかなというふうには思ったんです。
(山道) 普遍性が高そうな疑問っていうのは、つまり今の生物学でわかっていないことに答えられるとっかかりになるかもしれないテーマってことですよね。蚊のA と蚊のB については、恐らく蚊のC と蚊のD についてよくわかってるから、それを敷衍していけば、ほぼ同じことだろうと。もし本当に、絶海の孤島で全く未知の生態系が見つかったら、そこの分類学ってのはものすごい価値を持つわけじゃないですか(越川)確かに。
(山道) だから、今の生物学の知識がどこまで進んでるかっていうとこと、普遍性ってのは結構リンクしてるかもしれない。
(越川) 確かに、一番最初に蚊に種類があるってことに気づいた人が蚊A と蚊B を分類した研究は超普遍性ありますよね。それ、蚊じゃなくていいかもしれないけど、例えば生き物に種類があるっていうことに気がついて、それを分けた、アリストテレスとか、リンネとか。すごいですよね。確かに。それはその生き物を、2 種を分けたにすぎないけれども、そもそも生き物には種類があって、それはある特徴によって分けられるという普遍性を持ってるわけですよね。だから僕らが今までどれだけ知ってるかということに相当依存しているから、新しい観念を作るかもしれないような個別的、記述的研究というのは非常に役に立つ場合があるから普遍性を持つ。
(山道) でも、そういうことを言いだすと、結局、普遍性を持つか持たないかっていうのは、今の時点ではわからないっていうことになりますよね。
(司会) 生物学ってものに対して、どういうふうに研究すればいいのか、何を疑問に思って、何を答えればいいのかっていうことは、あんまりそういう教育受けてないものからすると、正直そこがわからないんですよね。話を聞いていても。そういう意味では今日、話していただいた内容は皆さんの手でまとめて、本にしてほしいぐらい楽しかったです。
(一同) (笑)
(加賀谷) そうですか。
(越川) もうまとめに入ってますね。
(司会) そうなんですよね。もうそろそろ時間になってしまったので、
(加賀谷) もうちょっと具体的な話もしたかったかな。
(司会) 第2 回をやってもいいですが、どちらかがすごい長い距離、移動しないといけないですね(笑)。
(一同) (笑)