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(司会) ちなみに、このフォークエスチョンは皆さんにとって、いい質問なんですか。いい問いなんですか。
(越川) 「何で」っていうのに対して、「何で」っていう言葉の意味がわからないっていう話ですよね。だからそれは問題が悪いと。どういう視点での何でを聞きたいのかっていう話で。
(加賀谷) そう、ただ「何で」では、答えが定まらないような感じがしますよね。
(原村) よく言われるのが、鳥が何で鳴くの? っていう質問対して答え方が4 つあるよっていうことなんですよね。
(加賀谷) 答え方の種類。
(原村) メスを呼ぶために鳥は鳴いてるんですよって答えもあるし、あとこの鳴管でしたっけね、ここに空気がとおって、それで声が出て鳴いているんですよっていう答えもあるし。それが4 パターンあるっていうのが4 つの問いっていうことですよね。だから質問するときに、どういう理由で鳥が鳴いてるんですかって言われたら、メスを呼ぶために鳴いてるんですよって答えられるし、どういうメカニズムで鳴いてるんですかって言われたら、鳴管に空気がとおって、それで鳴き声が出てるんですよっていう答えもあるし。質問するときの何でっていう単語でも答え方がたくさんあるからっていうあれですよね、ティンバーゲンの4 つの問いって。
(司会) 皆さんはそれぞれ4 つの問いの中から選んで研究を進めているのですか。
(加賀谷) 意識的に選びますね。生物学者に対して話すときに、その4 つの問いがわかるように。問いが共有できているなっていう人だったら、メカニズムですって言って、いうふうに。
(越川) 究極に共有できてない人の話をすると、子どもに、「何で?」って聞かれるじゃないですか。それで思わず聞き返しちゃうんですよ。どうしてそれが有利になるか知りたいのか、それともどういう仕組みでそれができるか知りたいのかっつったら、「そんなのわかんない…(泣)」って。
(一同) (笑)
(越川) 「何で?」っていう、自分の発してる言葉の意味すらわからずに聞いてほしくないじゃないですか。ただ子どもの「何で?」っていうのは非常にプリミティブで、僕は科学者の「何で?」と思っちゃうんだけど違うんですよ。子どもが「何で?」って言うのは、そのことについてもっと話してっていう意味なんですよ。ていうことに気がついて、それに気がつくのに1 年ぐらいかかったんだけど。だから何かそれに対して、だから例えばウグイスが鳴いてるねっていって、「何で?」って言われたら、ウグイスについて少し小話をしてあげればいいだけなんですが、「それはメカニズムのことを聞いてるのか?!」みたいな。
(一同) (笑)
(越川) ふうになると、痛いパパみたいな(笑)。でも僕らが科学者としてのトレーニングを受ける中で初めて、「何で?」っていう言葉の中には複数の意味が込められていて、それを分割して処理しなきゃいけないってことを学んだわけなんですよね。
(加賀谷) 多分、端を発してるのはもともとアリストテレスじゃないかな。
(越川) そうなんですか、そのフォークエスチョンズの?
(加賀谷) うん、多分。ちゃんと調べます。ていうかデネットの『ダーウィンの危険な思想』8 の最初のほうに確かそんな感じのこと、
(越川) そんな話ありましたっけ。
(加賀谷) 書いてあった9。
(越川) 僕は長谷川眞理子さんの本で、『生き物をめぐる4 つの「なぜ」』10 というのがあって。これはもう少し若いときに読むべきだったと。ポスドクになってからそれを読むとちょっと遅いと。
(一同) (笑)
(加賀谷) 僕は北大理学部生物で学生やっていて、はじめは周りが分子機構やっている人と神経生理機構やっている研究者ばかりという感じだったんですけど、そんなこと言う研究者がいなくって、その後別の先生入ってきて、たとえば松島先生、名古屋大から来られたんですけど、
(山道) ヒヨコの?
(加賀谷) うん。今までいた教員が入れ替わってきて、行動生態寄りの教員が増えてきたっていうことで知るようになりました。僕はというと、ずっと居座ってたんで、ずっと電極叩いてたんで。
(一同) (笑)
(加賀谷) その中で何か周りの教員が変わっていって、言ってることの意味が変わってきて、
(越川) 質問が変わってくるわけですね。
(加賀谷) そう、興味の質問が変わってきて、おまえはティンバーゲンのフォークエスチョンズも知らないのかみたいなことを言われまして。やべ、俺知らねえと思って(笑)
(山道) 僕は大学院に長谷川眞理子さんがいましたから。副指導教員だったんで。
(原村) やっぱり授業ではしっかりそういうこと教えられていたんですか。
(山道) そうですね。あともともと東大の駒場で長谷川寿一さんと眞理子さんがやってた人気授業があって、そこで教えてたと思うんですけど。
(越川) 教養の生物でやるべき問題のような気がしますよね。
(加賀谷) ですよね、やっぱり。
(越川) 生物学者の質問も、発してる人によって聞きたいことが違うじゃないですか。
(加賀谷) そうなんですよ。わかんないときあるんですよね。
(越川) その人が何を聞きたいのか考えなきゃいけないですよね。
(加賀谷) そうなんですよね。分子生物学者だと何か、メカニズムが多いですよね。
(越川) メカニズムでしょうね、恐らくはね。究極要因聞いてくる人はそんなには、でもいるな。ミズタマショウジョウバエの水玉模様の意味は何なの? って大体。質問がないときの質問っていうのがそれなんですよ。
(一同) (笑)
(越川) 役に立ってるの? って。アイドンノーとしか答えられない。単に答えは出ないと思っているので。メカニズムはもう本当に一つずつモレキュールを詰めていけばいいから、それなりの前進というのは見込めるかなとは思ってますけど。
(司会) はい(挙手しながら)。メカニズムっていう言葉、僕ちょっとまだ理解してないんですけども、現代だと分子生物学的な、いわゆる要素還元的なものをしらみつぶしに調べていったら、それはメカニズムがわかったっていうことになるんでしょうか。メカニズムっていうのは、そういうモレキュラーなものか、あるいはケミカルなのか、フィジカルなものもあると思いますし・・・その中身っていうのはあまり気にしないんですか。
(加賀谷) いや。します。
(越川) 担っている物体は何でもいいかもしれないけど、でも、それが、担っている物体なり遺伝子なりがわかると、メカニズムを理解するために非常によい助けになるので。ただ知りたいのは、遺伝子に関係することであれば、遺伝子がどういうタンパクを作って、そのタンパクがどういうふうに働いて、そういう現象を起こしてるかということを知りたいわけですよね。そういったメカニズム。
(加賀谷) 僕も神経メカニズムって言ってまして、で、僕、今、シャコのパンチについてはいつも単にメカニズムって言っちゃうんですけど、ちょっとぼかしてるなとは思うんです。身体のメカニズムと神経系のメカニズムと両方あって、でも、これは、分かちがたく結びついているので、一つで言うしかないよなと。身体機構っていって、体のフィジカルな部分っていう意味と、神経メカニズムという意味とを言ってしまってるんです。
(司会) 山道さんは個体群動態のダイナミクスという言い方をされることは多いと思うんですけども、それはメカニズムを理解しようということとは関係がないんですか。
(山道) 僕の研究は個体レベル以上の話なんで。行動生態学とか神経行動学っていうのは個体レベルの行動の理解を目標としていますよね。一方で、個体数の変動を調べる個体群生態学はティンバーゲンの4 つの問いの対象ではないですね。
(司会) メカニズムっていったときに数学を使っていると思うんですけども、数学っていうのはメカニズム中に入るのかなって、素朴に思ってたんですが。
(山道) 数学は適応的意義を調べるためによく使われてますよ。例えば、鳥が餌場に何分とどまるのか。なぜ10 分だけとどまるのかっていう問いに対して、機能という観点からは、これが一番効率がいいから、と答えられます。で、その効率のよさっていうものを調べるために数学を使うということはよくあります。