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(司会) それぞれの分野で、今おっしやったようなジレンマをある程度解決してうまくやってらっしゃる方はあまりいないのですか。
(志田) 例えば、一般向けの入門書を書くとかですかね?
(西村) 確かにそれはありますね。それに対する斜に構えた批判というのも恐らくあったりはしますが。
(志田) 「大衆に迎合している」とか「間違ってはないけど正確じゃない」とかいうやつですか?
(西村) そうですね、そういう見方が一方であるのもまた事実だと思うんですよね。
(志田) 古典語なり外国語なりを通じて文献実証的な研究をしている分野では、授業や一般向けの話で原語を抜いた途端に、なんといいますかスカスカになる印象はありますね。
(西村) もちろん翻訳を使うっていうのもありなんですけど、でもそのテキストがいったいどういう人物によってどういう歴史的背景で書かれたかってことから説明しだすと、もうそれだけで話が終わってしまうことにもなりかねないんで。要求されてる前提の量っていうのが、これはどの分野も同じだと思うんですけど、そこに割く労力という点で人文学者はほかの分野に比べてやや消極的だということは事実かもしれないですね。
(志田) 白眉プロジェクトに入ってから、分野を越えた人に対して自分の研究を説明する機会が増えたこともあり、短い時間で印象的なプレゼンをすることの必要性を強く感じました。私自身、アウトリーチ的活動に対して、どちらかというと消極的だったと思いますが、そういった活動が視聴率につながってるということを再認識しまして、ある意味価値の逆転現象が起こりました。外向けの話にも、何て言ったらいいんでしょうか、色々な知恵が詰まってるといいますか…。
(西村) やはり僕も白眉プロジェクトに入って考え方が変わったんですよね。それまで人文学っていうのは人類の知的財産への地道な寄与を純粋に行う、つまり美しき知の追究っていうものにこそ価値を置いてる分野なんだ、というある種の自負心みたいなものがあったりもしたんですよね。そのプライドは今もある程度ありますけど、ただその一方で白眉プロジェクトに入って、例えば天文学が専門の信川さんの話を聞くと、それなりの研究予算に対する責任と言いますか、信川さん、高校に行って出前授業をやってらっしゃるそうなんですよ。天文学も実用性うんぬんというよりも、かなり純粋学問的な側面が強いにもかかわらず、そうやって啓蒙的な活動をやってる人がいるんだという現実に直面すると、じゃあ人文学はその責任を果たしてるんだろうかって、このプロジェクトに入って思うようになりましたね。