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(司会) 最後に皆さんに将来の目標をお聞きしたいと思います。
(坂本) 僕はブータンに貢献したいとは思っているんですけど、自分が本当に貢献したいと思って仕事をしても、それが逆に害になることが結構あると思うんですよ。ブータンでワクチンが普及して、それは大事なんですけど、現地でインフラが整っていないので、それを村人に配ろうとした保健師さんが、 村にたどりつく途中の崖から転落して死んじゃったこともあるんですよ。こっちが勝手によかれと思って、これをやるべきだと言っても、それが現実に即していなかったら現場で働く人間を危険に曝してしまったり、現地に害を及ぼすことになるので、そこら辺は注意しないといけないなと思います。目標というか、ひとりよがりの判断で害を与えないようにと思います。
(王) 私は、タイなどで調査をやってきたんですけど、今、日本に外国人とか移民とか多いんですよね。最近、留学生も含めていっぱい日本人以外の人が、 本当にこの 20 年ぐらいで倍増というかすごいんですよね、中国人にしても。 それで、前は外国の研究で、日本のことを考えようと思ってたんですが、最近は日本のことも、異文化っていう感覚です。都市部なんかは、外国とか異文化とかいろんな問題が文化や宗教絡みで起こっているんで、日本と外国を比較するというよりも、日本の事例も異文化が混交している事例として、日本の社会を多民族とか多宗教という視点から見れるようになりたいなっていう気が最近しています。
(加藤) 私は、これまでずっとマレーシアの狩猟採集民を見てきたんですけれども、似たような歴史を持つ人たちが、 同じボルネオ島のインドネシアという別の国にも住んでいます。そこでも環境破壊とか似たような状況が見られるので、国家間でどういった相違がみられるのかを比較研究をしていきたいと思っています。あと、現地への貢献という点では、政策などへの働きかけができればいいなというふうに考えています。例えば、いま奥地の住民の生活援助として、いろいろなプロジェクトがあるんですけど、うまくいってないものも結構あります。例えば私が見ているのだと、養鶏プロジェクトとか養豚プロジェクトとかで、ニワトリとかブタとかを飼わせるんですけど、もともと狩猟採集をしていた人たちは、飼われたものを食べ物としてみなさない傾向があるんです。なのでそういったものを飼わせても、一切食べることがなくて、餌をやるだけでそのうちニワトリが病気になって死んじゃったというのがけっこうあります。政府も割とお金を出してやろうとしているんですが、慣習に合わないプロジェクトとか、 あまりうまくいってない部分があるので、そういったプロジェクトとかに何か提言をできるようになればよいなと思ってます。
(司会) 前野さんは、いかがですか?
(前野) 自分は、バッタの生態をいっぱい明らかにして、今まで人類が解決できなかったバッタの大発生を阻止する手がかりを得て、バッタ問題に終止符を打ちたいです。もう一つ、小さい頃からファーブルにあこがれてきたので、 いずれ自分がいろんな虫を研究して、 ファーブル昆虫記の続きを書いて、次世代にバトンをパスしていけたらいいなと夢見てます。
(王) 今のバッタに特化させず、いろんな虫を観察して。
(前野) バッタだけでなく、いろんな虫も研究したいです。
(司会) いずれ、前野昆虫記を出せたら。
(前野) ウルド昆虫記を出すのが夢です。
(坂本) 現実に出せるんじゃないですかね。
(前野) 何とかいけたらいいなと思います。今はバッタの研究をしていますが、 他の虫を研究してると、違ったアイデアとか考えるので、研究能力が向上してそれがいずれバッタ研究に還元されるので、いろんなかたちで研究していけたらいいなと。今は砂漠の昆虫にすごい興味を持っていて、砂漠という過酷な環境で生きている虫たちが、どういった技を秘めているのかを解き明かすことができれば、暑さ対策のヒントがわかったりとか、虫から学べることがたくさんあると思うので、いろいろチャレンジしていけたらいいなと思ってます。
(司会) 今日は海外のフィールドワークでの珍しい経験だけでなく、現地調査に対する皆さんの熱い思いを語っていただきました。お忙しいところありがとうございました。
モーリタニアでの野外調査(前野氏)
1中尾佐助(1916-1993) 京都大学出身の植物学者。
2川喜多二郎(1920-2009) 京都大学出身の地理学、文化人類学者。