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(司会) 皆さんいろんな国に行かれて珍しい経験とかってあるんですか。
(前野) 自分の赴任先がモーリタニア国立サバクトビバッタ研究所という、バッタ専門の防除機関でした。アフリカでサバクトビバッタが大発生する国には必ずそういう専門の機関があります。 ローマの FAO の本部で開催されたサバクトビバッタ会議に参加し、40 カ国の代表とみんなでバッタ問題について熱い議論を交わし、「おまえの国からバッタが飛んで来たぞ」とか、「我が国は見事にバッタ防除に成功した」とか国際的にバッタについて議論することがありました。
(司会) それはモーリタニア代表みたいな感じですか。
(前野) はい。自分は日本ではなくモーリタニアの一団として、FAO に派遣されました。あと、自分のやっているメインの研究は、4、5 日サハラ砂漠で野宿して、朝から晩までバッタが何をしてるかをひたすら観察することでした。
(坂本) 死の危険とかないんですか、砂漠の中で。
(前野) 遭難すると死ぬので、車に 2 メートル近いアンテナがついてて無線で数百キロ離れた研究所と通信できましたし、車に GPS つけたり。万が一、遭難したときに備えて、何重にも保険をかけていたんですけど、1 回サソリに刺されて泣きそうになりました。
(坂本) (笑)それは大丈夫なんですか。
(前野) 夜中にサソリに刺されちゃって。で、みんなを起こすの悪いからと思って、水で冷やして我慢してたんですけども、全然治らなくて。朝、所長にサソリに刺されたって言ったら、何でもっと早く言わないんだって怒られました。(一同)(笑)
(前野) 手遅れかもしれないけど、見せてみろって言われて、患部を見せたら、 所長がつねって呪文を唱え始めて、よし、浩太郎、これでもう大丈夫だって。(一同)(笑)
(前野) で、一命を取り留めました。(一同)(笑)
(司会) 加藤さんは狩猟採集の暮らしで珍しい体験とかってされたんでしょうか?
(前野) ご飯って何食べてたんですか?
(加藤) ご飯は、サゴヤシっていう、ヤシの幹に蓄積される澱粉(でんぷん)を食べていました。澱粉を砕いて、くず粉みたいな感じにして、で、食べるときにお湯で溶いたり、いろいろなものに混ぜて食べていました。
(前野) 加藤さんが食べてたんですか?
(加藤) はい(笑)。あとは言語が記録されていない少数民族だったので、まず言語を覚えることにかなり時間がかかりましたね。
(前野) そこに住むって言って、村人は出て行けとかならなかったですか。
(加藤) 幸いそのようなことはなかったです。もともと現地では、ほかの村の人がフラッと来て、数週間一緒に住んで、また帰っていくような慣習があったので、外部者が来ることに対して、 そんなに抵抗はないようです。来る者拒まず、去る者追わずって感じでした。 また、自分の子供ではない子を養子にしたり、血のつながりのない人と義親族のような関係を結ぶことがよくあるので、私も養子として受け入れてもらうことができました。
(坂本) 水はどうしてるんですか?
(加藤) 水は、水道はないんですけど、 近くに小川が流れていて、そこですべてですね(笑)。トイレも、飲み水も、 水浴びも、皿洗いもその川で、という感じでした。
(王) 女性として危なかったこととかないんですか?
(加藤) 村にいるときは、安全でした。 やはり村の慣習法というか、村の人々の目で守られているので、危ないことはなかったです。むしろ多分、全然知らないところに 1 人で行ったり、街に行ってスリに遭ったりとかそういうことのほうが、危ないかなと思います。 あとは、そうですね。言語的に言ってはいけない言葉が結構あって、それを知らずに私が言ってしまって、あっ、 みたいなことは、よくありました。
(前野) 禁断の呪文みたいなやつを(笑)。
(加藤) ええ。何か縁起が悪いことを言ってはいけないとか。そういう日本ではない慣習に自分の口と思考回路を慣らしていくのに、時間がかかりましたかね。
(司会) 坂本さんはいかがですか?
(坂本) どうですかね。川の話がありましたけど、ブータンでもブロッパって呼ばれる遊牧民がいて、ヤクとかを飼いながら移動してるんですけど、夏の場所は 3000 メートル超えるようなところにいて、ここは寒いので、冬になると下に降りてくるんです。その冬用の小屋は、やっぱり川沿いに点々とあるんですよね。そこは電気もないんですけど、人間が生きるために水の確保っていうのは、やっぱり本当に大事なんだなって、いうのを思いますよね。
(司会) 向こうで坂本さんは、みんなの病気、治すじゃないですか。みんなにはどういう感じで見られているんですか?
(坂本) 1 回こういうことがありました。 週に 3 回以上気を失うおばあさんがいたんですよ。それでみんなから、黒魔術にかけられて呪われていると言われてて。でも、症状聞いたら、てんかんだったんですよ。一応、診療所にてんかんの薬もあったんで、薬を出したら、 症状が治まっちゃったんですよね。そしたら、だいぶ遠い別の村に行ったときにその噂が広がっていて、おまえのことは聞いたことがあるとか言われて。 ある日、でかいやつが突然現れて、呪いを解いていったみたいな。(一同)(笑)
(坂本) そういうのがあって、それはその薬が発作を抑えただけなんだけど、 ここはすごい世界だなっていうのがありましたね。
対談の様子(前野氏と加藤氏)