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(前野) 自分は、坂本さんが研究を通じてその国にもいろいろ貢献する姿を見て、ああ、そういうのすごい重要だなと感化されました。モーリタニアと日本とは特に漁業で強い関係があるのですが、バッタ研究を通じて、モーリタニアの教育方面であったり、研究であったり、経済とかそういう方向にもいろいろ貢献できたらいいなっていうふうに考えるようになりました。
(王) 坂本さん、いつ気づいたんですか? 現地に行っておいしいデータだけ持って帰って自分の業績にする人多いですよね。
(坂本) それは伝統かもしれないです。 京大は中尾佐助1さんからのつながりというのがあって。ブータンにある未踏峰の山を登頂したいとか未知の植物を見つけたいっていうとこから始まったんだけど、川喜田二郎2さんが、ネパールの畑を見て、ここの川の水を上まで持っていってあげるような仕事をしたら、村人はすごい喜ぶだろなっていうふうにつぶやいたらしいんですよ。それを聞いたお二人の弟子である西岡京治さんが、俺は今まで頂上にばっかり目がいってたけど、これからはふもとに下りて、その人たちのために何かがしたいって言ってブータンに来たんですよね。ブータンで農業を指導して、 それでブータン農業の父といわれて、 28 年滞在して亡くなられたときには国葬になったんですよ。それだけブータンの方々のために尽くしたんです。僕をブータンに紹介してくださった栗田 靖之先生は西岡京治さんの御友人だったんです。そういう縁があって自分がブータンに入れたので、ブータンとの信頼関係を傷つけたくないというか。
(司会) 他の方にもお聞きしたいんですけど、今、坂本さんが伝統をけがさないようにとか、日本が積み上げてきたものというのが大事というようなことをおっしゃたんですけど、例えばフィールドワーク研究を行うにあたって、大切にしている考えとか、そういうのって、皆さん持ってたりしますか。
(前野) 例えば、モーリタニアの人にとって、私が初めて見る日本人というケースもあるので、もし私がその人たちに対して嫌なこととかすると、日本人最悪と思われてしまうので、現地にいるときは日本代表として恥ずかしくない態度で現地の人と接し、困ってる人がいれば手を差し伸べようと心がけるようになりました。
(王) 私、修士の時に民族植物学的な調査で植物採集をやったときに、自然から学べっていうか、フィールドから学びなさいっていうのをすごく言われました。植物学者は、自然に対する畏怖とか尊敬があって、それはフィールドワークになったらなおさらで、植物は語らないけど、植物から聞くっていう態度が一緒にいてすごく伝わってきました。 それまでは移民に対する自分の先入観がすごくあったんです。けれども、相手のバックグラウンドとかあんまり最初から偏見持たずに向こうから学ぶことを通して、移民とか難民も苦しんでいる中で、そこから結構学ぶことはあるなって思いました。ただ、そういうフィールドから学べることを、日本に帰ってきて異文化を経験していない人にどうやってメッセージとして伝えるかっていうのは工夫しないといけないんです。その工夫のしどころが、多分人文系の人の大事な点というか、ただ事実だけを外から日本に持ってきても、 メッセージはあんまりないんですよね。 学んだことをこちら側に伝わるようにアレンジする工夫がないと、単なる珍しい話聞いたみたいになっちゃうから、 その工夫をどうするかとかは、ちょっと考えないといけないなと思っています。
(加藤) 私は、できるだけこちらが持っている価値観を捨てて、現地の人と同じ視点に立って、相手のことを対等に理解したいと思っています。例えばここは汚いとか、これは遅れているとか、 そういったことを現地の政府の役人や周りの人たちが言うことがあるんです。 そうではなくて、彼らの生活への敬意や、彼らの価値観への尊敬とかは常に持っていて、その行動の裏側にある考え方をできるだけ同じ視点で理解したいと思っています。なので、できるだけ同じ生活をして、同じものを食べて、 同じ視点に立てるように努力しています。あとはそうですね、現地の人のためになるという考え方はものすごく大切だと思います。例えばマレーシアでは IC カードという、戸籍のような身分証があるんですけれども、奥地では情報が入らなかったりしてマレーシア国民として登録されていない人たちがたくさんいるんですね。で、そういう人たちが身分証を作りたいと言ってきたら、それを調べて、こういうふうな手続きでできるよと一緒に手伝ったりしています。現地の人が求めている情報は、出来るだけ伝えるようにしています。私も彼らのことを色々教えてもらってるので、彼らが必要としていることがあったらできるだけ応じたいと思っています。
ブータンでのフィールドワーク(坂本氏)