宇宙生命探し~欧米の分野間連携の動きを捉える~ (行方 宏介/2024)

第14期 特定助教(理学研究科)行方 宏介

 宇宙には、太陽のような恒星が無数に存在し、その星の周りには「太陽系外」惑星が回っている。そこで私たちは問いかける。「そこには生命が存在するのか?」天文学は今、その謎に迫るフェーズに差し掛かっている。だが、こうした問いに挑むには、天文学だけでは不十分だ。太陽系惑星科学や太陽物理学といった他の学問領域の協力が不可欠である。しかし、実際これらの分野は長い間、独立して発展してきた背景があり、連携は十分に進んでいない。本稿では、近年欧米諸国での分野間連携に関わった体験を記す。

 2024 年4 月に白眉に着任してから、異分野連携を学ぶために海外のワークショップに積極的に参加してきた。2024 年6 月、アメリカのカリフォルニア工科大学(Caltech)で行われた「KISS ワークショップ」では、恒星、惑星など4 つの分野から世界トップクラスの研究者が集まり、「太陽系外」惑星の環境に関する新テーマを発掘するための議論が行われた。研究者の滞在費や旅費を全額カバーするサポート体制が整えられており、異分野の研究者同士が、対面で深い交流を持つことを目的としていた。私は、幸運にも「恒星」研究者としてこの場に招待された唯一の日本人であった。

 ワークショップの進行は非常にユニークだった。参加者は全員が円卓に座り、1 週間にわたりブレインストーミングを行うスタイルだ(図1, 2)。「我々が解決すべき問題とは何か?」その定義を見つけ出すところから始まった。しかし、すぐに気づかされたのは、分野ごとに使われる専門用語の意味が異なるという現実だった。ホワイトボードに用語を書き出し、お互いの言葉の定義を明確にするところから議論はスタートした(図1)。この過程で思い出したのは、NASA の異分野連携の専門家であるV. Airapetian 氏の「異分野連携で最も重要なのは、異分野を理解しようとする意欲」という言葉だ。この言葉を思い出し、むしろこの困難な時間を楽しむことにした。新しい分野を切り開くとはこういうことか、と圧倒された会議だったが、圧倒される経験こそを欲していた私にとって大きな原動力になる経験だった。

図1 ワークショップの様子
図2 ワークショップの様子、ミニゲームの様子
図3 オーストリアの市内、天文台、食事

 1 週間の議論は濃密だったが、ワークショップ中にはリフレッシュの時間も設けられていた。例えば、チームに分かれて「コーンホール」(図2)を行う時間などもあった(私はMVP 級のプレーでチームを優勝に導いた)。こうした時間も、分野の違いを超えた交流が自然と深め議論を活性化させるに重要だった。

 幸いにも、今回のワークショップを通じて問題点と今後の方針を整理することができ、現在、共同でレビュー論文を執筆中である。日本では、欧米に比べて異分野間の連携にやや遅れが見られるものの、恒星と惑星を繋ぐ新たな動きが少しずつ見え始めている。特に、分野を超えた協力を促進するための共同予算の確保に向けた試みが進行中であり、これらの取り組みに対し、自分の経験をどうフィードバックできるかを、今まさに考えているところである。

 さて、話は変わるが、9 月にはオーストリアのウィーン大学で別の分野間連携ワークショップに参加した(図3)。ヨーロッパの最新の動向を知る、まさに絶好の機会だった。歴史の息吹を感じるウィーンの街並みを歩きながら交わした議論は、今も鮮明に心に残っている。一方で、ワイナリーでの夕食中、自分の酒の弱さを忘れ、顔を真っ赤にしてへばっていた光景だけは、そっと記憶の片隅に追いやりたいと思っている。