オックスフォードでチベット研究 (井内 真帆/2024)

第12期 特定准教授(文学研究科)井内 真帆

 2024 年1 月より1 年間の予定でオックスフォード大学のウォルフソンカレッジに滞在して研究をしています。オックスフォード大学のチベット研究はアウンサンスーチーの夫としても知られるチベットヒマラヤ地域の研究者マイケル・アリス(1946–1999)によって始められました。現在は第16 回を数える第2 回国際チベット学会(1979 年)や第7 回国際若手チベット学会(2024 年)のホストを行うなど、国際的にチベット研究をリードしてきた研究機関のひとつです。オックスフォード大学のチベット研究は主に、アジア・中東研究(旧オリエンタルインスティトゥート)とウォルフソンカレッジで行われており、現在はウルリカ・ルースラー教授と語学を担当するチベット人講師のラマジャプ博士の専任教員二人がチベット関係の講義を担当しています。また、ウォルフソンカレッジには2012 年に創立されたチベットヒマラヤ研究センターがあり、イギリスでチベット研究が単独で行われている唯一の研究機関です。(1) センターでは世界中から研究者を招いて行われるセミナーが定期的に開催され、活発な研究活動が行われています。私も2 月に “Post-Imperial Tibetan History and Its Sources” というタイトルで発表を行いました。

 オックスフォード大学はチベット語の貴重文献も多く所蔵しており、それらはボドリアン図書館の中のひとつであるウェストン図書館にあります。(2) 同ライブラリーには軍人であり探検家としても知られるヤングハズバンド(1863–1942)使節団のチベット遠征(1903–1904)の際に持ち帰られたチベット語文献やマイケル・アリスの研究ノートなどが所蔵されています。また、ウェストン図書館にはチベット語文献専門のスタッフのチャールズ・マンソン博士が所属しており、日本の大学図書館もチベット語の貴重書を多く所蔵しますが、オックスフォード大学のように古典チベット語を読むことができる専属の研究者を置いているところはありません。先に書いたとおり、オックスフォード大学にはチベット研究の専任教員が2 人いますが、チベット語のネイティブの教員やチベット語書籍の専門スタッフを確保できているということは日本の研究機関との大きな違いであると感じています。

 それから、直接研究内容とは関係はないですが、研究を行う上で非常に大切なことである生活面についてですが、昨今の円安と物価高でイギリスでの長期滞在はかなりの出費です。こちらは家賃や光熱費が非常に高く、また、家族の保険や教育費は研究費からは支出ができませんが、滞在費用の中でかなりの割合を占めます。イギリスの未就学児の教育費は非常に高額で、私も滞在の当初は子供をウォルフソンカレッジ付属の保育園に通わせましたが、保育料は日本の3 倍ほどで非常に高額なものでした。(3) 海外での研究滞在はまずは生活環境を整える必要があり、家を探したり、保険を選んだり、子供の学校について調べたり、と下調べや事務手続きにもかなりの時間を費やします。私自身も子供を連れての長期滞在は初めてのことで知らないことが多くあり、全て一から調べ、普段読んだことがない種類の英語の書類をたくさん読むことになりました。ビザや保険、学校のことなど、その時々で状況は変わるのですぐに情報は古くなってしまいますが、帰国後は海外に長期滞在する研究者と研究環境の整備についてもなんらかの情報交換ができればと考えています。


1 https://thsc.web.ox.ac.uk/home#collapse3780596

2 ボドリアン図書館のチベット語文献に関しては以下からオンラインで検索することができます。

https://karchak.bodleian.ox.ac.uk

3 ちなみに、イギリスでは4 歳から小学校のレセプションクラスの義務教育が始まるそうで、公立の学校では授業料は無料、給食費などもレセプションクラスや2 年生までは無料など、費用はそこまでかからないようです。私の子供も滞在の後半は小学校に行くことになり、保育料は必要なくなりました。