森と大気のガス交換測定を通して森と人間社会の関係を考えたい(坂部 綾香/2022)
坂部先生のご研究によって、なにがわかってきましたか?
森林は土壌でのメタン吸収が期待されていますが、滋賀県のヒノキ林で観測を行った結果、季節的に森林がメタン放出源となることが示されました。また、森林におけるメタン動態はこれまで土壌に焦点が当てられてきましたが、ある種の幹表面からかなりのメタンが放出されることも分かってきました。現在、どこで生成されたメタンがどのような経路で幹から出てくるのか、メカニズムに迫る研究に取り組んでいます。インドネシアの泥炭湿地林でもフラックス観測を行っています。水位が高いため水に浸かった植物遺体が分解されずに堆積し、泥炭土壌には膨大な炭素が蓄積されています。しかし、近年の泥炭地開発により炭素が急速に大気へ放出されることが懸念されています。観測の結果、泥炭湿地林はわずかなメタン放出源であることが分かりました。泥炭地開発に伴う排水はメタン放出を抑制しますが、水位の低下により酸素にさらされた泥炭の分解を促進し、二酸化炭素の放出量を著しく増加させます。二酸化炭素に比べてメタンの放出量は数パーセントであるため、蓄積された炭素を維持するには、泥炭湿地林を未撹乱のままで、地下水位を高く保つことが重要であることを観測により示しました。未知のメカニズムはモデルに組み込みようがないので、データに基づいてメカニズムを探ること、そしてGround truthを取り定量的に評価することは、地上観測者にしかできない仕事であると考えています。

坂部先生は、今後森の研究とどのように向き合っていかれますか?
数々のトラブルを乗り越え、多くの共同研究者の協力でつながれた長期データは、ありのままの自然の変化を見せてくれます。例えば、森林土壌のメタン吸収量を10年以上継続して測定しているのですが、大気中メタン濃度が上昇するにつれて、土壌メタン吸収量が増加していることが分かりました。環境と生物は相互に作用するし、その関係は不変ではないことを実感しました。今後も、人間活動、それに起因する環境変化が森林におけるガス交換にどのように影響を与えるのか、反対に森林のガス交換の変化は気候にどのような影響を与えるのかを明らかにする研究を続けたいと考えています。
最後に、森と人間社会の関係を考えていく際に、自分が専門とする分野だけでは答えは出せないと考えています。データは熱帯湿地林からオイルパームへの転換は、膨大な炭素放出を招くと数値で示したとしても、オイルパーム産業は人々に経済的な恩恵をもたらしますし、森林を切り開いてダムを建設することで、多くの人の生活が豊かになることも事実であると思います。どこかでバランスを取る必要がありますが、森林の機能に関する科学的なデータが判断基準の一つとして加わることを目指して研究したいと思っています。
インタビュー後記
第12期の東島沙弥佳さんと2名で坂部さんの研究を取材させていただきました。地球環境を維持するために森林が重要というのは漠然と知った気でいましたが、研究者がそれを実証する“ 森林全体を考える” データをどのようにとっているのかというその視点が新鮮でした。私がフィールドとする草丈の低い草原地帯とは違い、森林は地表から約50mの広大な空間が対象です。草とは違い樹齢を重ねる樹木、したがって森林も成熟するなど、“ 森林”の多様性を改めて知る機会になりました。
(第12期 大谷育恵)
