森と大気のガス交換測定を通して森と人間社会の関係を考えたい(坂部 綾香/2022)
第10期 特定助教(農学研究科)坂部 綾香

なぜ森林を研究しようと思ったのですか?
子供の頃、地球温暖化についてのニュースを見るたびに、地球の気候はどうなってしまうんだろうと不安に思った記憶があります。そして大学に入る頃、この問題にはきっと森林が重要だろうと森林科学科を選びました。植物は光合成をすることで、二酸化炭素を吸収して酸素を放出するから、あるいは、なんとなく森林は環境に良さそうというイメージ程度であったかもしれません。漠然と、地球上には森林が存在するべきだろうと思っていました。では、なぜ森林が大切なのか? それに答えるには、森林が地球環境にどのような影響を与えているのか正確に知る必要があると思いました。森林が気候に与える影響を科学的に説明することが、森林を保全する意義の答えにつながると考えたためです。
森林研究=木・植物の研究というイメージがありますが、なぜガス交換に着目されたのですか?
知りたいのは森林を舞台とした生物活動が地球環境に与える影響ですが、林内の生物活動は多岐にわたるため、例えば1本の木をじっくり調べても、森林全体が大気に与える影響を定量化するのはなかなか困難です。そこで、林内の様々な生物活動、物理プロセスの結果起こるガス交換量を測定することで、森林生態系と環境の関係を定量的に理解することを目指しています。人間活動によって地球上の炭素の循環に変化が生じ、大気中の温室効果ガスが増加することで地球温暖化が引き起こされると考えられていますが、森林は陸域の炭素循環の主役です。なかでも熱帯林は、年間を通じて盛んに光合成をおこない、巨大なバイオマスを形成していることから「地球の肺」とも呼ばれます。さらに、森林と大気間では、水蒸気、メタン、その他の気候に影響を与える様々な微量ガスがやり取りされており、森林のガス交換は気候に影響を与えています。生物活動が反映された結果であるガス交換量が、一日の中で、季節の中で、より長期的には森林が成熟するにつれて、あるいは気候が変化する中で、ダイナミックに変化する様子を捉えられる点を非常におもしろく感じています。
森林におけるガス交換を定量化するにあたり、どういった作業・研究をされているのですか?
樹冠より上で乱流渦による空気の動き(鉛直風速)とそれに連動した対象ガス濃度の変動を0.1秒ごとの高速で測定し、両者の変動の関係から対象ガスの鉛直方向の輸送量(フラックス)を計算します。フラックスは風上方向の広範囲を代表したものであり、自然状態の生態系の物質交換量を測定することができます。樹冠より上にアクセスするためにタワーにのぼります。マレーシアのパソ熱帯雨林にあるタワーは、樹高が高いので地上52 m のタワー先端に測器が設置されています。樹冠を抜けたタワーの上はジリジリ暑いのですが、眺めは抜群で風が気持ち良いです。タワーを使った二酸化炭素フラックスの観測は、陸域生態系の二酸化炭素収支を把握することを目的に、世界中の森林で観測が展開されています。私は、森林でメタンフラックスの観測を行っています。メタンは二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスですが、二酸化炭素に比べて大気中濃度が低いため測定が難しく、理解が不足しています。ある森林がメタンの放出源となるのか吸収源となるのかさえ、測定してみないと分かりません。そのため、測器を設置して最初にデータが見られる瞬間が一番の楽しみです。生物活動に影響を与える環境データと併せて解析することで、どのようなメカニズムでフラックスの変動が起こっているのかを探ります。
