生態学とボルネオ熱帯林(青柳亮太/2023) 

第12期 特定助教(農学研究科) 青柳亮太

生態学を志したきっかけ

 映画「Jurassic Park」の中で、本物の恐竜を目の当たりにした古生物学者が、口をあんぐり開いて驚くシーンがあります。巨大な恐竜の筋肉の動きや引きちぎられる植物の音に、生物進化の壮大さを感じさせるものがありました。この映画が公開されたのは私が小学生の時ですが、そのシーンを見た時の感動は今でも残っています。度肝を抜くような未知のものに触れて生きていきたい!この感動が研究者になろうと考えたきっかけだったと思います。ただ、研究内容としては、生物の痕跡を対象とする古生物学ではなく、生き様を研究する生態学を志しました。「生きる」というところに、生物の生物たる所以があり、そこに「生物とは何か」という大きな問いの答えが隠されているのではないか、と思ったのです。

ボルネオの森と研究

 私が対象としている熱帯林での調査研究は、たくさんの未知の経験と驚きを与えてくれます。例えば、桁違いの生物多様性の高さ、圧倒するような樹木の巨大さは、日本人のもつ森のイメージとは大きく異なります。私の研究は、こうした多様かつ巨大な森が人の手によってどう変化するかを、衛星画像という宇宙からの「目」を用いて明らかにする、というものです(図1,2)。衛星画像や機械学習などの情報科学技術によって、これまで不可能だった大きな空間スケールで熱帯林を観測することが可能になりつつあり、熱帯林をより深く理解することに繋がると期待しています。

 衛星画像解析から予測される森の状態を確認するために、泥臭い植生調査が必要です。衛星画像の中でランダム点を発生させ、車、ボートを使いつつ、時には林内でキャンプをして、とにかくその地点まで行き、生えている樹木の名前、サイズ、多様性を調べています(図3)。密林での調査はゾウ・蛇・昆虫など危険な動物も多いため、森をよく知る現地の村人と一緒に行動します。異なる文化を持った人々と時間が過ごせるのは、フィールドワークの醍醐味でもあります。熱帯の村人というと、裸で暮らしている人々を想像されるかもしれませんが、実際にはボルネオの森林で暮らす人々もスマートフォンを持っており、文明の影響は人里離れた奥地まで届いています。しかし、同時に、日本とは隔絶した何かが垣間見られることがあります。例えば、現地の人々のナタ・紐など道具を使う技術、動植物に関する知識、GPSなしに森を歩き回るセンスは私には真似のできないものです。マレーシア・サバ州の山間の地域の人々は、一昔前は首刈り族として知られており、首を切る木剣や人間の首を軒先にかざる風習について、教えられたりしました。近代文明が導入されることで、人間と自然との関係がどのように変わっていったのか、これは私の近年の興味でもあります。

コロナとフィールドワーク

 2020年初旬頃から始まったコロナウイルスのパンデミックの期間、私はそれまでに貯めたデータを解析することで過ごし、相対的には大きな影響を受けなかったと思います。しかし、パンデミックは研究室の「文化」に強く影響を及ぼしたと感じています。私が学生時代から所属している農学研究科の森林生態学研究室では、パンデミックの期間、学生は熱帯研究を諦めざるを得ませんでした。熱帯での調査を行うためには、資源調達や移動、コミュニケーションなど、様々な現場の知識が必要ですが、熱帯研究をしている人がいない世代が続いたことで、これまで受け継がれてきたノウハウが途切れてしまったことを感じています。今はそうした文化を再生できるように、学生らと熱帯研究を再開しつつあるところです。実験機器や解析の知識だけでなく、現場でのノウハウや人とのつながりが実は研究室の重要な財産であることを実感できたことは、もしかしたら、とても大事な経験だったのかもしれません。