2020年度年次報告会(2021年3月19日/田辺理)
2021年3月19日に、2020年度白眉プロジェクト年次報告会が開催されました。例年通りに開催されていれば、対面形式で行われるべき年次報告会ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延により、今年度はWeb 会議サービスアプリケーション(Zoom)を利用して、参加者を白眉センターの関係者に限定して招待することによって、無事開催することができました。
第10期大井雅雄と第11期田辺理が司会を行いました。特別講演として、金沢大学教授の森雅秀先生を招待しました。白眉センターからは、第9期檜山智美、第9期藤井俊博、第10期相馬拓也、第8期古瀬祐気の諸氏が研究発表を行いました。
森先生には、日本の弁財天の起源とされるインドの女神サラスヴァティーについて研究発表を行っていただきました。インドのサラスヴァティー像には見られない、八臂の弁才天の図像が成立するプロセスをたどり、その背後にヒンドゥー教の女神崇拝や、中国と日本の観音信仰があることを御教示いただきました。森先生の発表は美術作品と文献の記述を統合した考察であり、白眉センターに所属する研究者に大きな刺激を与えたのではないかと思います。
檜山氏は、クチャの仏教石窟寺院の中でも、鑑賞者が見ることは想定されておらず、仏教的な儀礼や供養を目的として制作された壁画の事例を紹介しました。藤井氏は、宇宙線が我々の銀河系内起源であるか、または銀河系外起源であるかを中心に、最近の研究成果について報告を行い、さらに、次世代の宇宙線実験へ向けて開発中の新しい検出技術を紹介しました。相馬氏は中央ユーラシアを代表する野生動物、イヌワシ、ユキヒョウ、オオカミに焦点を当て、信仰、行為、狩猟、環境認知などの動物民俗学ついて発表しました。古瀬氏は、新型コロナウイルス感染症のクラスター対策班に所属していたことから、その活動内容やウイルス対策について即効性のある発表を行いました。以上の発表は全て白眉センターの研究に相応しい、独創性に富んだ研究成果であるといえましょう。
リモートで行われた報告会にもかかわらず、このように様々な分野の研究発表が行われ、盛況のうちに終えることができました。しかしながら、リモートでは十分な質疑応答が難しく、対面形式で行われたならば、さらに活発な議論ができたのではないかと残念に思います。今年こそコロナ禍が終息し、再び来年から対面で年次報告会が行われるよう期待しております。

(たなべ ただし)