2017年度年次報告会(2017年4月18日/菊谷竜太)
去る4月17日(火)、京都大学・芝蘭会館にて今年も白眉年次報告会が開催されました。2017年度の報告会テーマは「空間と境界」。「世界」がどこまでの「ひろがり」をもち、どこが「さかいめ」となるのかという問題は古来より人類の知的活動の源となり、また様々な領域へと繋がる可能性を秘めています。分野の垣根を超えたこの多様な可能性について自身の研究領域のありかたとともに再考しようという趣旨のもと設定されました。
公開シンポジウムは昨年と同様に二部構成となっており、前半は「空間と境界」をキーワードに歴史・宇宙・生命・宗教の各分野より参集した4名の白眉登壇者による発表が行われました。演題は、日本近代史より鈴木多聞准教授(5期)による「日本近代史における国境線」、宇宙物理学より榎戸輝揚准教授(6期)による「オープンサイエンスで挑む雷雲と雷の高エネルギー大気物理学」、細胞生物物理学より宮﨑牧人准教授(8期)による「タンパク質から観た細胞の世界-タンパク質分子は如何にして“巨大”な細胞を制御しているのか?-」、インド・チべット仏教学より菊谷竜太(8期)「身体孔「九門(navadvāra)」-インド密教における「内」と「外」」。
近代史における国境あるいはボーダー概念を嚆矢に、宇宙と地球との「境目(さかいめ)」で発生する不思議な地球物理の現象、タンパク質の視点から捉えた細胞という広大な空間の認識、仏教文化圏における身体観と宇宙論へと話が続くなかで、身近な締め切り概念から次第にそれぞれの研究分野上の「境界(さかいめ)」まで話が及び、さまざまな専門領域の性格が鮮やかに切り出されるとともに学問の多様性を再確認することができました。
前半と後半の間には全白眉研究者によるポスターセッションが行われました。最先端の研究成果が一堂に会する貴重な機会であり、会場のあちこちで熱の入った議論が交わされ、白眉プロジェクトならではの分野・国境を超えた交流がもたれました。
後半は、京都大学高等研究院の北川進教授と東北大学教養教育院の鈴木岩弓教授による招待講演です。北川先生からは、錯体化学の分野より「微小な空間の世界に招待」という題目でご講演いただきました。活性炭・ゼオライトという多孔性材料の機能と役割について貯蔵・分離・触媒の観点から明らかにされたのち、有機物と無機物からなり無数の小さな空間(細孔)を有する新たな多孔性金属錯体材料の創製と、この技術が現代の課題(地球環境、エネルギー、医療、健康)解決にどのようにつながるのかを明らかにされ、科学技術と社会問題について知識を深めることができ、大きな刺激を受けました。鈴木先生には、宗教学・宗教民俗学の立場より「あの世とこの世の接点」という題目でお話しいただきました。「死者の肉体は朽ちるが、死者の霊魂はあの世で永続する」という我が国における霊肉二分論の文化ならびに生者と死者の関わりについて、時間と場所に注目され、宮城県の戦死者慰霊と青森県恐山における霊場の現状をご報告いただき、現代社会における宗教の役割と可能性について再認識することができました。
最後に、赤松明彦センター長を司会とし、参加者・登壇者を交えたトークセッションが行われました。それぞれの発表に関する質問に始まり、ミクロやマクロな視点における「かたち」がどのような機能的役割をもち科学技術の発展にどう繋がるのかという点から、文化的な時間・空間概念は物理あるいは生命科学における概念とどのように異なるのかという疑問さらに科学と非科学のさかいめの話題へと次第にひろがり、最終的にはこれからの学問をどのように束ねていくべきかというところにまで論が及びました。その内容は予定の30分という枠に収めるにはあまりにも短く、小川正 PM による閉会の挨拶が終わった後も議論は尽きることなく、場外戦は続きました。


(きくや りゅうた)