白浜研究合宿(2011年5月26~28日/長尾透)
2年目に入り、新たに19名の教員が加わった白眉プロジェクト。様々な学術領域で活躍する研究者が集う本プロジェクトには既存の分野を超えた新たな発想やブレイクスルーが期待されますが、そうしたポテンシャルを具現化していくにはスタッフが相互理解を深め忌憚なく意見を交換しあうことが欠かせません。このような背景を踏まえ、昨年11月の屋久島研究合宿に引き続き、今年5月にも研究合宿を行いました。

今回訪れたのは、本学が和歌山県白浜町に設置しているフィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所です。崖や入江や砂浜といった多彩な環境に囲まれた実験所は生態系のフィールドワークを行う研究者にとっては奇跡のように素晴らしい場所であり、また他分野の研究者にとっては見るもの聞くもの全てが新しい学びにつながものでした。実験所教員によるこの地域の生態系に関する説明や水族館の見学により理解を深めることができ、特に他分野の研究者にとっては見聞を広げる素晴らしい機会となりました。合宿中には主に1期の教員による研究報告とそれを踏まえた議論が行われました。中でも印象深かったのは、上野さんの話題提供による「自由意志は存在するか?」という議論でしょうか。数学やコンピュータ科学が取り扱える問題の範囲に関係するN vs NP問題(100万ドルの懸賞金がかけられた数学の有名なミレニアム問題のひとつ)の解説に引き続き、アリのエサ取りをコンピュータを用いてシミュレートする取り組みが紹介され、生物の活動は原理的にはコンピュータで記述できるような問題に帰着できるのか、そもそも人間が持つ(と人間が勝手に信じている)意志=自由意志とは本当に存在するのだろうか、といった問題が提示されました。脳科学の実験結果を紹介しつつ意志という概念のあやふやさを指摘する人がいれば、仏教学の立場から意志と前世の関係についての見解を述べる人、ギリシア神話の登場人物が己の運命に関してゼウスとやりとりする一節を紹介する人もいて、「白眉プロジェクトならでは」という議論が夜遅くまで続けられました。
最後になりましたが、今回の研究合宿のために様々なご支援をいただいた瀬戸臨海実験所の大和先生をはじめとする皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
(長尾 透・ながお とおる)