山中伸弥・京都大学 iPS 細胞研究所長との懇談(2010年5月20日/齊藤博英)
当日、私は朝から興奮を抑えきれなかった。何しろテレビや学会会場のとおーくの方でしかその姿を拝見した事のない山中先生に会って、お話できる機会が与えられたのだ。これだけでも白眉研究者になったかいがあるな~とセッティングをしていただいた吉川理事に感謝した。山中先生は、iPS細胞の作成に初めて成功された、京大が世界に誇る研究者だ。iPS細胞とは平たく言うと、どんな細胞、臓器にでも生まれ変わる可能性をもった夢の細胞だ。私は手塚治虫の火の鳥に出てくる、鼻の大きな博士が細胞の種を容器にまき、ぶくぶくとした泡の中から目的の臓器が出現するシーンをイメージしてしまうが、そのような技術がSFではなく、将来可能になるかもしれないのだ。

当日は新米白眉研究者がピカピカのiPS細胞研究所(CiRA)に集合し、まず建物内部を見せていただいた。こんな場所で働きたい!これが私の心の中の第一声だ。アメリカ流のオープンスペースラボと中心の螺旋階段が印象的だった。どんな研究がここから生まれるのか、とても楽しみだ。見学後は、山中先生とお弁当を食べながら、我々の自己紹介と質問タイムを設けていただいた。我々の話に対し、熱心にメモをとられる先生の姿が印象的だった。私は質問タイムで「今回の発見に至った実験をなぜ思いつかれたか?」と尋ねたと思うが(実は緊張してあまり覚えていない)、山中先生は、その実験に至るまでに他の研究者を含む様々な発見の経緯があり、当然の帰結としてその実験をおこなった、という話を丁寧にしてくださった。また、 東樹さんが「研究室全体の意欲を高めるにはどうすればよいか?」という質問をされたときに、少し間を置いて考えられ「難しい問題で、私自身もこれから考えていきたい」という意味のことを話されたのも印象的だった。テレビで拝見するのと同じ研究に対する真摯な姿勢で直接お話していただき、大変感動した。他にも若い研究員や技術員の任期問題など、その待遇を改善したいというお話から、若い世代のことを考えて新しい組織を作りたいという強い意志が感じられた。研究にとどまらず色々な事柄に関する先生のお考えを聞けた事に、この場を借りてお礼申し上げたい。
(齊藤 博英・さいとう ひろひで)