第85回白眉セミナー : 『地球環境問題の誕生―大気圏内核実験により世界中に拡散した放射性降下物をめぐる科学と政治』
- 樋口敏広 (京都大学白眉センター)
- 2014/10/21 4:00pm
- 白眉センター(iCeMS西館2階 会議室)
- 日本語
要旨
私たちの地球は、かつて大気圏内で行われていた核兵器の爆発実験から生じた放射性降下物により、ごくわずかだが検出可能な程度に覆われている。この地球全体に拡散した放射性降下物 (グローバル・フォールアウト)は、冷戦時代に「核による平和」を追求した核保有国とその同盟国の安全保障政策の遺産である。また、軍備管理の一環として米英ソ三国が1963年に締結した部分的核実験禁止条約は、汚染物質の排出を地球規模で規制する初の国際条約として数えられている。しかし、地球規模の放射能汚染が始まった当初はその環境内分布と生物的効果に関する科学的知見が不確実であり、さらに核実験禁止は政治的に論争的であった。なぜ、このように不確実で論争的なグローバル・フォールアウトが次第に「問題」として認識され、最終的に解決されたのか。本発表では、科学と政治の相互作用に着目し、グローバル・フォールアウトに係る不確実性の解釈と政治的な利害が冷戦の展開と連動して同時に変化したことを米英ソ三国の史料に基づいて解説する。最後に、グローバル・フォールアウトという歴史的経験が現代の地球環境問題に対してどのような示唆を与えるかを考えたい。