第8回白眉セミナー : 『言語の多様性とは何か? なぜ重要なのか? 私たちに何ができるのか? 』
  • Nathan Badenoch(京都大学次世代研究者育成センター)
  • 2010/09/21 4:00pm
  • 次世代研究者育成センター(iCeMS西館2階 会議室)
  • 日本語

要旨

地球には無数の生物種がおり、また多様な生態系があったおかげで、地球の生命は、変化に適応し、数十億年の間続いてきました。21世紀には環境問題がますます深刻化することが分かってくるにつれ、生物学的多様性の価値が重視されるようになってきています。世界の言語の多様性についても、同じような深刻な問題が起きつつあります。世界ではいま、約6700の言語がありますが、100年以内にこのうち半数以上の言語が失われるおそれがあります。ある確かな見積りによれば、世界の言語のうち長期にわたって安全なのは、何とたった600しかありません!いま、生物が絶滅するよりもはるかに速いペースで、言語が絶滅していっているのです。

言語は人間にとって、日々の意思疎通の道具だけではなく、はるかに重要な意味を持っています。言語には話者の知識と信仰の体系が現れています。言語は人と人が協力するための人間関係の基盤です。言語は文化を特徴づける顔です。そして、言語は人類が未来に適応し、生存してゆくための道具なのです。1つの言語を失うことはすなわち、人類が不確かな未来に立ち向かうための能力を失うことを意味します。一方で、言語の違いは社会の溝を生みます。言語の多様性は紛争の原因ともなりえるのです。本発表では、「言語の多様性」という概念を導入し、それがなぜ社会にとって重要なのかについて説明し、また私自身の研究の目的と対象を紹介します。社会・経済の発展と言語の関係を双方向から検証します。(1)社会・経済の発展は言語の多様性にどういう影響を与えるか? (2)言語の多様性は人類の発展の可能性にどう貢献するか?

本発表にはラオス社会科学院言語学研究院院長のThongphet Kingsada博士をお招きしています。Kingsada博士は現在京都大学東南アジア研究所の訪問研究員をしています。Kingsada博士には、国家政策の策定と施行に関与する政府研究者という立場ならではの、興味深い洞察を寄せていただけると思います。

関連する研究者

BADENOCH Nathan(バデノック ネイサン)