第48回白眉セミナー : 『生命の起源から細胞操作へ:微小系の温度勾配』
- 前多 裕介(京都大学白眉センター)
- 2012/10/16 4:00pm
- 白眉センター(iCeMS西館2階 会議室)
- 日本語
要旨
我々の住む地球にはkmあるいはそれ以上の大きさにわたる温度の勾配がある。大陸移動や気象現象は温度勾配に駆動されると考えられ、地球は熱により少なからざる恩恵を受けているといえよう。そして、熱は私たちの生活をも一変させた:産業革命においてカルノーは温度差のある2つの熱浴の間で作動する熱機関の原理を定式化し、後に熱力学第2法則が導かれる。
mm以下のより小さなスケールでは、海底噴出孔の表面にある穴に温度勾配が存在することが知られている。熱対流が抑えられるような微小系の温度勾配では、化学物質は温度勾配に駆動されて一方向に輸送され(熱泳動またはソーレ効果と呼ばれる)、物質量に不均一性をもたらすと考えられる。微小系におけるソーレ効果を明らかにするため、我々は赤外線レーザーにより局所的に温度勾配を形成しDNAとRNAの熱泳動を計測した。本セミナーでは、高分子溶液中の熱泳動によりDNAとRNAが輸送され分離・濃縮しうることを紹介する。これまでに得た知見から、自然界における温度勾配が機能的なRNAを選択しRNAワールド誕生に至るとする生命の起源の物理的シナリオを議論し、さらに本研究の応用として生体分子と細胞を操作する新たな技術の開発についても紹介したい。