第219回白眉セミナー : 『チベット語文献から読み解く中世チベット史』
- 井内 真帆 (第12期 文学研究科 特定准教授)
- 2022/06/07 4:30pm
- Zoom(京都大学および白眉センター関係者限定)
- 日本語
要旨
チベットの中世の始まりの時期(10世紀から13世紀頃まで)あるいはチベット仏教の後伝(前伝はチベット帝国時代)と呼ばれる時代は、政治史的には地方豪族が割拠する時代で、古代のチベット帝国(7–9世紀)や後のダライ・ラマ政権(17–20世紀初頭)などの統一した権力がないことから「分裂期」と呼ばれた。しかしながら、文化史的にはチベットにおいてサンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、カダム派やカギュ派、サキャ派などチベット独自の宗派が成立するなどした「チベットのルネッサンス」と呼ばれる時代である。この時代についての文献はチベット語以外に存在しないこと、またそのチベット語の同時代文献にも限りがあることから、この時代は長らく「チベット史の空白」とされてきた。白眉の期間での私の研究はこの「チベット史の空白」をここ最近15年ほどの間にチベット本土から新たに発見されたチベット語の写本文献と現地でのフィールド調査によって明らかにしようとするものである。今回はその中から特に、中世初期に関わる写本文献—(1)ダライ・ラマ5世秘蔵書、(2)ポタラ宮殿所蔵文献、(3)カラホト(黒水城)文献、(4)プリ文献—の4つの文献群とそれらを使ったチベットの中世史研究の試みについて紹介する。