第163回白眉セミナー : 『 動物言語学入門:鳥類の鳴き声における指示性と構成性 』
- 鈴木俊貴 助教(白眉センター・理学研究科・生物科学専攻)
- 2019/04/02 4:30pm
- 白眉センター(学術研究支援棟 地下1階大会議室1、2)
- 日本語又は英語 (大学院生を含めた学内の研究者が対象の公開セミナー)
要旨
ダーウィンが『人間の由来』(1871)を著して以来,140年以上にわたって,言語はヒトに固有な性質であると考えられてきました。ヒトは単語を用いてモノや出来事を指し示したり,さらにそれらを組み合わせることで多様な文章をつくり会話します。一方で,ヒト以外の動物(以下,動物)の鳴き声は単なる感情の表れであり,他個体の行動を機械的に操作するシグナルにすぎないと捉えられてきたのです。しかし,この二分法は本当に正しいのでしょうか?
私は,この疑問を胸に,野鳥の音声コミュニケーションを研究してきました。13年以上にわたるフィールドワークから,鳥類の一種・シジュウカラが,捕食者の種類を示したり仲間を集めたりするための様々な鳴き声をもち,さらに,これらの鳴き声を一定の語順に組み合わせることで,より複雑なメッセージをつくっていることを発見しました。受信者は,決して機械的に反応しているわけではなく,鳴き声の示す対象をイメージしたり,音列に文法のルールを当てはめることで情報を解読していることもわかってきました。これらの発見は,私たちが普段会話のなかで使っている認知機能を動物において初めて実証した成果であり,言語の進化に迫る上でも大きな糸口を与えるはずです。
本講演では,上記の研究内容を紹介しながら,野外観察や行動実験から動物たちの豊かな認知世界にどのように迫れるのかお伝えすることができれば幸いです。