第156回白眉セミナー : 『 原爆と科学の歴史の転換点 』
- 田中祐理子(白眉センター・文学研究科)
- 2018/11/20 4:30pm
- 白眉センター(学術研究支援棟1階)
- 日本語 (大学院生を含めた学内の研究者が主な対象の公開セミナー)
要旨
今回のセミナーでは、昨年私が三人の歴史研究者と一緒に行なったワークショップ「原爆と医学史」をもとに、「1945年」を科学史の転換点としてとらえる視点について話します。 原子爆弾の製造が実現され、戦争状態で使用されたことは、通常の科学研究活動の内的な論理や要因だけでは説明できない、歴史的な展開を現代世界にもたらしました。特に、二つの科学史的に重要な状況が考えられます。 第一の点は、まったく新しい診断術と病理学を要求する「臨床」の出現です。被爆地での日米の医療・医学従事者は、先例の応用が通用しない状況で、新たな実践を模索しなければなりませんでした。記録や現場で収集された情報は、「臨床」をとりまく複雑な社会的要請や政治的限界性に影響されながら、新しい医学の形が作り上げられていく過程を伝えています(私の友人である歴史学者たちの研究から、それらの場面をご紹介します)。 第二の点は、19世紀半ばまでは実在を疑われていた「原子」が、その「存在感」において、ここで突然、決定的な変化を遂げたことです。「爆発」という可視的な現象と、「生体への影響」という微視的・過程的な現象が、20世紀初頭に自然科学研究と哲学研究の両分野で進められていた議論を、いわば「追い越してしまう」場面が生じました。この場面は科学研究と哲学研究の双方の実践に、様々な混乱を残したと考えられます。その混乱の諸相を、「科学/技術」、「理論/現実」、「認識/未知」の三つの筋に分けて、現代の科学哲学の問いの基盤をなすものとして整理してみたいと思います(これは私が現在とり組んでいる試論です)。