第13回白眉セミナー : 『植物の匂いと生物間相互作用』
- 塩尻かおり(京都大学次世代研究者育成センター)
- 2010/12/07 7:00pm
- 次世代研究者育成センター(iCeMS西館2階 会議室)
- 日本語
要旨
野菜を切ったり草をちぎったりしたとき、その植物の匂いを感じることでしょう。この匂いは人工的に傷をつけたときと虫に食べられたときとでは異なり、さらに食害している虫の種によっても異なります。そして、この匂いは誘導的揮発性物質とよばれ、植物自体の免疫として働くだけでなく、その他の生物にも作用しています。本セミナーではこの誘導的揮発性物質(以下、匂い)よってもたらされる生物間相互作用を私がこれまでに研究してきたものを中心に紹介します。1)匂いを介した生物間相互作用ネットワーク:植物-植食者-捕食者(三者系)という3つの栄養段階において、捕食者は植物が出す匂いを利用して餌である植食者を探索します。そこに別の植食者を導入した場合に匂いを介した相互作用ネットワーク構造が浮かび上がりました。2)匂いの昼夜の異なりと昆虫の行動:ある夜行性昆虫は植物の昼夜の匂いの異なりを識別し夜行性行動を引きおこしていました。一方、その夜行性昆虫の天敵は昼行性であり、昼に食害を受けたときに放出される匂いが多く放出されるからではないかと考えられました。3)植物間コミュニケーション:被害を受けた植物に隣接する植物は、誘導抵抗性を発現させ植食者に対して前もって防衛することができます。これは隣接する植物が匂いを受容することで引き起こります。この現象を野外で実証し、さらに生態学的意義について考察しました。