第128回白眉セミナー : 『霊長類の意思決定のコントロールと神経回路の機能同定』
- 雨森賢一(京都大学白眉センター)
- 2017/05/09 4:30pm
- 白眉センター(学術研究支援棟1階)
- 英語(大学院生を含めた学内の研究者が主な対象の公開セミナー)
要旨
霊長類の脳は驚くほど複雑で、分散した領野がシステムとして協調しながら機能しています。 こうした脳の機能分化の特徴から、神経科学では、神経活動を局所的に制御し、現れた行動と活動を対応させることで、 機能の同定が行われてきました。 また、意思決定・価値判断などの内的な行動を定量的に分析するために、経済学や計算論による行動の数理モデルが用いられ、 神経活動の相関を取ることで、活動の意味付けが行われています。私は、この神経制御手法と計算論モデルの二つをうまく組み合わせて、 不安障害、うつ病といった精神疾患のメカニズムの理解や適切なコントロールを目指しています。 特に、不安の意思決定への影響を定量的に扱うため、「接近回避葛藤」という概念に着目しています。 我々の日常の意思決定では、コストと利益のバランスを考えなければならないことがよくあります。 例えば、ある選択をすると報酬と同時に罰が与えられる場合、意思決定は接近回避の葛藤を伴うものになります。 我々は、マカクザルに報酬と罰のセットを受け入れるか、拒否するかの意思決定を行わせ、その選択パターンから、 サルがどれほど悲観的であるかを計算論的な手法を使って推定しました。 さらに、帯状回皮質や尾状核を局所刺激し、意思決定がどのように変化するかどうかを調べました。 すると、おもしろいことに、局所刺激により、計算論で導かれた悲観度のパラメータが、 特徴的に上昇することを見つけました。不安障害になると、罰に対してより注意を向け、意思決定が悲観的になることが知られています。 このことから、帯状回皮質や尾状核の過剰な活動は、サルを一時的に不安にするのかもしれません。