第104回白眉セミナー : 『石を読む』
- 上峯 篤史 (京都大学白眉センター)
- 2015/11/17 4:30pm
- 白眉センター(iCeMS西館2階 会議室)
- 日本語(スライドは英語表記)
要旨
石は割れる。少なくとも330万年前には、ヒトは石を砕き、鋭い刃を作り出していた。以降、石はもっとも身近な資源としてヒトに寄り添い、時にヒトの進化を促しながら、物質文化の根幹を支えてきた。ヒトが石とともに歩んだ歴史は、地中から出土する石器のなかに綴られている。石は読める。石が生まれて以来、その身に起こったあらゆる出来事を読みとっていくのが、私たち石器研究者の仕事である。とりわけ石器づくりに関しては、私たちは手中の石器の先に石器時代人の手を見ており、その動きを通して彼らの意識を追体験している。
50年来、考古学者を悩ませてきた石器がある。日本列島における現生人類以前の文化をめぐって、熾烈な存否論争を引き起こしたその石器は、石器として不自然である、縄文時代の石器の誤認であるなど、様々な扱いを受けてきた。ところが今夏、この石器が約7万年前の先住人類ののこした道具であると証明できた。今、これを紛れもない先住人類の石器として観たとき、何が読めるだろうか。彼らは何を考えたか。彼らの手は、自由に動いていたか。本セミナーでは1点の石器の読みから、私たちの最後の隣人の姿にせまる。