第103回白眉セミナー : 『頭の中で』
- 大槻 元 (京都大学白眉センター)
- 2015/11/10 4:30pm
- 白眉センター(iCeMS西館2階 会議室)
- 英語 (大学院生を含めた学内の研究者が主な対象の公開セミナー)
要旨
日々の生活の中で、私たちは実に多くのことを見聞きし、経験し、学びます。そのような過程を繰り返して、何かを知り、興奮して、次の新しい発見に繋げる方も多いのではないでしょうか? 私も、そのような『知る』喜びに魅せられている一人です。 では、『知る』こと、それ自体は、一体、どのようにして頭の中で成立しているのでしょう? この途方もない難問に、現代の神経科学は挑戦しようと努力し続けています。私はこれまでに脳の中にある神経細胞が、情報伝達の仕方を変化させる仕組みを研究してきました。神経細胞同士の結合部位であるシナプスでは、伝達する強さが変化し、この脳の『シナプス可塑性』と呼ばれる変化現象は、学習・記憶の基礎過程と信じられてきました。しかしながら、近年ではシナプス以外の樹状突起と呼ばれる構造でも、応答が持続的に変化することが明らかになっています(Ohtsuki et al., 2012a, Neuron)。また、知覚することに関して、視覚野の方位選択性をお話しします。大脳皮質一次視覚野における神経細胞は傾いた棒や光に反応します。近年、同一の神経幹細胞から派生した神経細胞群(クローン細胞群)は、似た傾きに反応することがわかりました(Ohtsuki et al., 2012b, Neuron)。そして、子どもの脳では、水平方向の光に反応しやすい点についても、お話しする予定です。神経生物学は、生理学、分子生物学、物理学(電気・光)、情報数理、遺伝学など、多彩な学問体系によって支えられた領域です。今回のセミナーは、複雑になり過ぎず、身近な例から導入して、皆様に楽しんで、頭の中で起こっていることをわかって頂けますように努力いたします。
今回はセミナー冒頭に、6期の榎戸輝揚さんに長期海外出張およびクラウドファンディングの報告をしていただく予定です。