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(中島) 僕は実験で、研究しているのは量子シミュレーションと呼ばれるものなのですが、それ(高棹さんが最初に描いて下さったスキーム図)には収まらない感じです。例えば何か物理系Aがあって、この系はある方程式で記述されるのだけど、②にいきたいと思っても数値計算が追いつかない。例えば、流体力学のナビエ–ストークス方程式というのは直接解くのは難しいから、風洞実験という別の物理系Bを使って解くということをします。
(高棹) 別のサイクルになるって感じですかね。
(中島) そうです。例えば今の風洞実験で言うと、本当に飛行機いちいち作っていたら大変ですけど、ナビエ – ストークス方程式のときはレイノルズ数っていう無次元の量さえ同じにすれば、基本的には同じ方程式で記述されるので、そこを同じにしてもっと作りやすい模型とかでテストするということができます。僕の研究は、それと同じようなことを量子系と呼ばれる物理系に対してやっているという感じです。
(下野) シミュレーションっていう概念自体がけっこう難しいですよね。意外に広がりがあるっていうことが今見えてきてると思うんです。今日対談するのを、これまで話したことから、どんな話になるだろうっていうのを私もシミュレーションしましたけど、なかなかうまくいかなかった。
(一同) (笑)
(下野) われわれの研究でお話をさせていただくとすると、いろんなシミュレーションというか、理論と現象の関係性っていうのがあるんですけれども、脳の中には、ニューロンっていう細胞が大量にあるのがまず問題です。その一つ一つのニューロンという素子の挙動を表現する方程式、それ自体が研究になるんですけども、その素子が大量に集まったらどんな挙動をするかっていうことは、うまく平均化できるというようなことを前提としないと議論が長く難しかった。これが、①の矢印ですよね。それからさらに平均化を超えて踏み込んだ研究が出てきて、非常にノンユニフォームになっているっていうことを真面目に考えはじめると、今度は実験データが足りていないとも気づきます。知りたいことは「法則」であり、究極的な理解であり、また情報の圧縮した姿としての「解」です。こういったものを抜き出せたら、一歩は理解が進んだということで、まだデータが足りていないから、データに戻ってそれを取っていくっていうことと、でも取るときには、常に何か、どういうかたちで話がこれまでの抽象化された姿よりも改良されてるのかっていうのを意識しながらデータを取っていってるっていうのが、われわれのやっている研究の姿のような気がします。 高棹さんが描いてくださったスキーム図への別の見方として、①から②を介してから③で戻すか、①からその逆向きの矢印ですぐに現象(a)に戻すか、のどちらに力点を置くかっていうので研究のアプローチって多少個人差があるんですよね。つまり法則そして解を抜き出したいっていうところでは、しっかりと何か抽象化した表現を持ちたい。でも、もう一つの考え方は、何か現象の見た目を再現できればいいじゃないかっていう発想、あるいは自動化アルゴリズムに頼っても、予測性能が高ければいいという発想があります。その前者寄りの人と後者寄りの人の間での、ある種のイデオロギー的な視点の個人差といいますか、そういったものも見受けられる気がしますね。
(高棹) なるほど、僕は本当②しかやったことなくて。
(川中) でも、高棹さんも一応現実の現象を意識されてないわけじゃないですよね。
(高棹) ないわけじゃないです。ただ、数学の観点だと、まず得られた法則、方程式に解があるかっていうのは慎重に検証しなきゃならない。先ほど出てきたナビエ–ストークス方程式って、ミレニアム懸賞問題になってますけど、要はこの方程式が数学的に解けますかっていうのが、未解決という大問題があるわけで。
(中島) いや、物理のセンスでいくと、解がないということはないだろうっていう(笑)。流せば流れるし、例えば、初期条件に対してすごく敏感になるとか何か乱流になるとか、そういうことはあるだろうけど、解がないってことはないだろうと思うわけですよ。
(高棹) 例えばあるところで特殊な渦ができて、その渦のスピードがある時刻で無限大に発散しちゃうことがあるのではないかとか、そういう意味です。
(下野) それは、特異点とかの話でしょうか?
(高棹) そう思ってもいいかもしれません。