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今年の 4 月より、私にとっては古巣であるところの京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科(以下「耳鼻科」と略します)に着任しました。平成 10 年に医学部卒業後、 1 年間の研修医生活を送った時以来ですので、実に 20 年ぶりになります。
居室は「耳鼻科医局」と呼ばれる、病院構内の第一臨床研究棟6階の一角にあります。このエリアに耳鼻科の教官室や秘書室、セミナー室、研究室などがあり、20 年前とあまり変わっていません。一方、外来と病棟は新しくなっており綺麗になったのはいいのですが、同じ場所に建て替えるわけにはいかないからなのか、医局からやたら遠くて困ります。しかも、新病棟の建築中ということもあってか、院内の構造は複雑怪奇でまるで迷路のようです。例えば耳鼻科医局から耳鼻科病棟のある南病棟 5 階に行くには、昔は病棟が研究棟に直結していたためほぼ平行移動するだけでよかったのですが、今は6階から階段で(エレベーターは使えない)3 階まで降りて、隣の建物に移動してから4階に上がり、さらに長い渡り廊下を通って南病棟に入り、そこで5階に上がらなければいけません。未だに考え事しながら歩いていると道を間違えます。
迷路といいますと、私の研究対象である内耳もその複雑な構造から迷路(labyrinth)とも呼ばれているのでした。 内耳の原基である耳胞は球状のシンプルな袋であり、そこからかような器官が発生する過程は非常にドラマチックで興味深いものです。
私は耳鼻科医としての使命感から、難聴治療の基礎研究としての内耳発生研究を始めたはずであり、白眉プロジェクトの研究提案書にも「研究と臨床の橋渡し」といった文言を置いたように記憶しています。しかしながら、内耳がかたちづくられる面白さを追求することのみにかまけて、臨床へと繋ぐ糸口が見つからないまま時間切れとなってしまいました。実は今もまだ、ウイルス・再生研に通って内耳の基礎研究を続けさせていただいております。 臨床では、現在のところ耳鼻科初診外来とめまい専門外来を担当しています。院内の複雑怪奇に自分自身めまいがしそうになりつつも・・・今のところは好奇心が上回っております。研究を臨床に繋ぐ糸口がどこかにありやしないだろうかと探し求めながら、病院地区およびそれ以外の研究施設を彷徨う日々です。
白眉は、私にとっては「理想郷」そのものでした。
自分がそこにふさわしい人間であったのかどうかと考えると、忸怩たる思いを禁じ得ません。それでも、いつか自分自身をそのように認めることができるよう、残された時間とエネルギーをかけて精進する所存です。皆様もどうか長い目で見ていただき、末永くお付き合いいただけますと幸いです。
京大病院耳鼻科外来診察室にて
(たてや ともこ)