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東京は世田谷区にある駒澤大学に赴任し、瞬く間に1年が過ぎました。2017年3月、白眉の修了間際に実施したインド出張で足の骨を折るケガをし、帰国後の「離籍者セミナー」(3月28日開催)では左足にギプスをはめての登壇となってしまいましたが、当日参加されたみなさまに温かく送り出していただき、白眉での短いながらも濃密な時間を惜しみながら、新天地での生活に踏み出していったのがついこの間のことのように思えます。
こちらでは週5~6コマ程度の講義を担当し、そのすべてが仏教もしくは宗教全般に関わる教養教育に充てられています。駒澤大学の前身は曹洞宗と呼ばれる禅仏教の門弟が集う学舎であったため、今日でも学内では剃髪した見習い僧侶の学生や、色鮮やかな袈裟をまとった海外からの留学僧をしばしば見かけます。チベットを対象に、国家・社会の中における宗教の位置づけを探求してきた私にとって、学生の前で宗教の現代性や国際性について思う存分講じ、それがそのまま仕事になる、という状況は願ってもない喜びであり、自分でいうのも変ですが「水を得た魚」とはこのような心境であろうかと、好きなことで身を立てられる幸福を改めてかみしめる毎日です。
他方で、白眉プロジェクトで私が目指そうとしていた「自分だけができる、世界レベルの研究」から一歩後退せざるを得ない、という実感は、充実した毎日を送りながらも、やはり大きな気がかりとして心中に残り続けてきました。伯楽委員の前で訴えた「私がやりたいこと(=現代中国における「仏教の政治」の展開を世界規模で把握すること)」は、5年間の挑戦的な没頭を可能にする白眉の環境においてのみ実現可能であり、現在の職務と所期目標の両立に悩ましい思いを抱えていました。幸いにもこの春(2018年度4月)、白眉で目指そうとした課題をより長期的なスパンで練り直した科研申請書が採択され、細々とでも、この課題に継続的に取り組んでいける見通しを立てることができ、白眉に採用された当初の挑戦的な闘志がよみがえってきたような心持がしています。
最後に、白眉センターでのセミナー参加や業務経験、同僚の方々との酒を交えての語らいは、たった半年の期間ではありましたが、異分野の研究者の視点から自分の研究を捉え直す貴重な機会を与えてくれました。これからも「終身白眉」として、白眉関係者の方々とのつながりを大切に保っていきたいと願っています。
駒澤大学の耕雲館(1928年創建、現在は禅文化歴史博物館)をバックに、長男(2歳)と。
(べっしょ ゆうすけ)