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白眉の任期が目前に迫ってきた昨年12月に阪大に異動しました。毎朝、北山連峰を横目に四条大橋を駆け足で渡り、モノレールから万博公園の樹海にそびえ立つ太陽の塔を拝みながら、学生時以来の電車通勤(5回乗り換え)をしています。しかし、日々の仕事内容に大きな変化は無く、客員として京大でもラボを維持させて頂いていますので、白眉から離れたという実感はまだ強く涌いてきません。
居室にて
この慌ただしかった一年を振り返りますと、面接のために新緑鮮やかな吹田キャンパスを15 年ぶりに訪れ、6月に内定を頂きました。空っぽの薄汚れた実験室を10月に内覧後、実験室のデザイン・改修工事を行い、3月にラボの引っ越しを行いました。移動後もラボの立ち上げに忙殺され、6月になった今、ようやく落ち着いてきた状態です。現在の私のポジションは医学系研究科の独立准教授で、「分子行動神経科学」と新たに名付けた講座を担当させて頂いています。白眉と同様、ありがたいことに5年間研究を一生懸命行って下さいということで、今のところ講義や委員会などの役割分担は低くして頂いています。
通勤時に論文読みや読書の時間ができたため、今日も湯川秀樹博士の「目に見えないもの」を読みながら、年次報告会でのワークショップ「見えるものと見えないもの」で長尾さん、熊谷さん、西村さんらと議論したことを思い返していました。白眉に着任前は、あまりにも研究分野の異なる者同士が集まっても単なる寄せ集めで、研究者間の化学反応は起きないだろうと懐疑的な気持ちも多分にありました。しかし、実際に白眉研究者の話を聞いていると、純粋に好奇心が湧き上がる心地よい時間が過ぎ、現実(各種書類書きや経理・事務処理、ラボのマネージメント)を忘れることのできる貴重なひとときでした。伏木先生、田中先生のお人柄も相乗され、このような時間を享楽する心の余裕が白眉には存在しました。斬新な発想や創造は、無から突然に生まれてくるものではありません。これらは過去の様々な経験の痕跡が相互作用を起こした結果、閃きとして生じるものであり、白眉での時間は、この核となる格別の経験を与えてくれるものだと今では思っています。
(まつお なおき)