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私の研究分野は「超高エネルギーガンマ線天文学」と呼ばれ、可視光の 1000 億倍以上のエネルギーをもつ電磁波を放射する天体を観測し、宇宙の極限現象を探求するものである。それには「大気チェレンコフ望遠鏡」と呼ばれる特殊な望遠鏡が必要になる。それは数人の研究者で作れるようなものではなく、どこかの企業に発注すれば済むものでもない。 多数の研究者で大規模な Collaboration を形成し、望遠鏡の構成要素(反射鏡、光検出器、駆動装置、データ収集系等) を分担して開発していく。そして、得られた観測データを共有して研究をすすめる。
博士過程から現在まで、私は主に MAGIC 望遠鏡を用いた研究をしている。MAGIC Collaboration はドイツ、 スペイン、イタリア、日本、スイス、フィンランド、クロアチア、インドなどの国からの約 150 人の研究者で構成されている。年に2回、5日間程度の Collaboration 会議があり、たくさんの国々の人に会えるのが学生時代は非常に嬉しかった。Collaboration 会議の場所は毎回異なり、様々な国のさまざまな都市を訪れる。会議期間中には Collaboration Dinner があり、その土地の特産の料理やお酒を楽しむことができる。また、Collaboration サッカーマッチが必ず行われ、参加希望者を2チームに分けて、2時間程度サッカーをする。チーム分けの方法が国際 Collaboration ならではで、スペイン人とイタリア人対その他という「ラテン vs 非ラテン」にしたり、日独伊対その他という「枢軸国 vs 連合国」の構図を作ることもあった(私の記憶が正しければ、その時は枢軸国が勝ったと思う)。Collaboration 会議は毎回、 仕事の報告をしなければならないというプレッシャーとともに、同世代のたくさんの外国人研究者達とお酒なりサッカーなりを通して親交を深められる喜びがある。
2013年11月、スペイン、マドリッドでの Collaboration サッカーマッチ
MAGIC 望遠鏡は、スペインのカナリア諸島ラパルマ島、 標高 2200m の位置にある。最低4人の研究者が交代で現地にひと月(観測のできない満月から次の満月まで)滞在し、 望遠鏡を動かす。12 月後半のクリスマスの時期には、ヨーロッパの国の人々は観測シフトを取りたがらない。(拒否権のない)学生時代には、日本人である私はその時期にシフトに行かされる事が多かった。標高 2200m の山の冬は非常に寒く、苦労した。しかも、望遠鏡は日没から夜明けまで動かすわけだが、冬は夜が長く、どう考えても損なのである。 ヨーロッパ人はクリスマスという口実のもと、冬至を避けているのかもしれない。
観測シフト中の食事は基本的に自炊する。4人で交代で作るがそこでも文化の違いがでる。日本人である私はだいたい、カレーやシチューの固形ルー、だしの素や味噌などを持参して、簡単だがそれなりの味になるものを作って振る舞う。評判も悪くはない。イタリア人やスペイン人も個人差はあれ、おいしいものを作ってくれる。シフト中毎日ケーキを焼いてくれるという伝説的なイタリア人女性研究者がいるのだが、私はまだ一緒にシフトを取ったことはない。一方でサンドイッチしかつくらないドイツ人研究者とシフトをしたことはある。
現在 MAGIC 望遠鏡より感度の高い望遠鏡群、Cerenkov Telescope Array(CTA) の開発、 建設を進めている。 CTA Collaboration は、 約 30 カ国からの 1200 人以上の研究者で構成される。宇宙の極限現象がさらに深く解明できる喜びがあるとともに、アメリカ人、イギリス人、フランス人など、MAGIC Collaboration にはいない国の文化に触れられるのが楽しみでもある。
(さいとう たかゆき)