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私が専門としている放射線診断学(画像診断学)は単純X線やCT、核医学や超音波、MRIの検査画像を通じて患者さんの病気の診断を行う学問である。研究は腫瘍のMRI診断を中心に行ってきたものの、日常臨床では「頭のてっぺんからつま先まで」全身を診る必要があり、かつCTやMRI等の画像診断技術の進歩は目覚ましく、技術の進歩に追いつくべく日々の勉強も欠かせない。時間は有限であり、基礎研究・臨床研究・臨床を同時並行で進めていくというのはなかなか簡単な道のりではないが、研究と臨床は(私自身の場合は)お互いに連動しており、研究で得た新しい知見が臨床の前進にも繋がっているし、日々の臨床で沸いてきた疑問が研究テーマに繋がることもある。白眉ではこの基礎研究・臨床研究・臨床のバランスを保ちながら従事でき、本当に感謝している。
主に研究に用いるMRIは体内のプロトンから発生する微弱な電波を受信して画像化するイメージング技術である。生体内のプロトンは水や脂肪に多く分布しているため、MRI画像はこれらを含む組織内のプロトンの密度や状態を中心に、様々なコントラストを持つ画像を作成可能である。画像診断においてはこれらの様々な種類の画像をもとに診断を行う。私が画像診断の研修を始めた当初は、定性評価(白い(高信号)、黒い(低信号)など判断)を主体に日常のMRI読影を行っていた。読影のプロの先生方はこのような定性評価を用いながら、豊富な臨床経験・知識に裏打ちされた匠の技で的確な診断を次々とこなされていくのだが、研修を始めたばかりの私は、MRI画像を用いた定量評価を臨床の現場でもっと浸透させ、匠の技を数値化などのアプローチで(一部でも)代用する様な方法を開発できるのでは、また画像の背景として見えているもの、画像の奥にあるものをより詳細に解明することでさらに正確な診断に結び付けられないか、と密かに考えていた。その後、水分子の運動を定量可能な拡散強調MRIに着目し、拡散強調MRIの可能性を広げ新たな診断法を開発することを目標にするようになった。留学や白眉の研究期間を通じ、研究グループの皆で複数の拡散強調MRI定量値を持つマップから診断マップを作成する方法を開発したり、病理標本と拡散強調MRIマップとの対比を通じ拡散強調MRI定量値が反映している病理学的背景を少しずつ明らかにし、論文や特許などの形にできた事は非常に幸運だったと思う。研究を始めた時の志を忘れず、今後も大事な研究テーマの一つとして継続して取り組めたらと考えている。
研究で主に用いるMRI装置に関しては、ヒト用と小動物用では仕様や研究のアプローチがまるで異なる。同じ様な撮影法で撮りたいと考えても、一方の装置では撮影シークエンスの開発から着手する必要があったり、またMRI装置やコイル(電波を受信するアンテナ)などの特性などもまったく異なり、小動物用の撮影法をヒトにスムーズに適応するわけにはいかない。ヒト用MRI、小動物用MRI、それぞれにメリット、デメリットがあり、各々が持つ特徴を如何に最大限に活かせるよう工夫するかがMRI研究の醍醐味であるのかもしれない。
MRIの特徴である様々な定量値の計測には膨大な労力・時間を要し、生体の組織と同様の信号値を示すような、生体の代役を果たしてくれるファントム(模型)を用いた実験が必要不可欠である。乳房MRI性能評価用ファントムの例を図に示した。複数のチューブの中に、異なる組織を模した溶液を入れて撮影し信号値を計測・解析したり、異なる幅のスリット板を作成し撮影することで、どのくらい細かいスリットをMRI画像上認識できるかを調べ,画質や診断における有用性を評価する。 MRIの研究を中心に述べてきたが、臨床で扱うモダリティ(医療機器)は単純X線やCT、MRI、核医学や超音波など多岐にわたる。これらの医用画像技術は約100年の間に飛躍的な発展を遂げてきた。1901年のRöntgenのレントゲン発明に対する第1回ノーベル物理学賞、1979年のHounsfieldのCT発明に対するノーベル生理学受賞、2003年のLauterburとMansfieldのMRI発明に対するノーベル生理学・医学受賞に代表されるように、その一部の恩恵を受けて研究や臨床をさせてもらっている身としては、有り難い限りである。次のノーベル賞をとるような新たなモダリテイはもう、私たちの目の前に存在しているのかもしれない。
ファントム画像
乳房MRI性能評価用ファントム
(いいま まみ)