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私は現在、オックスフォード大学の法学部の一機関である Centre for Socio-Legal Studies にて在外研究を行っている(滞在期間は 2013 年 12 月から 2014
年 11 月まで)。ここを訪問先として選択したのは、同センターに Fernanda Pirie 博士がいるからである。 Fernanda 博士は、チベット法文化を専門とするオックスフォード大学出身の人類学者である。彼女の主なフィールドワーク先は、中国・青海省のチベット遊牧社会とインドのラダック地域のチベット村落社会である。 私は彼女と次のような接点を持つ。即ち、①研究対象が同じくチベット仏教圏の遊牧社会(チベットとモンゴル)であること、②私も人類学を学んだことがあること
(北海道大学/ 2005 年 4 月から 2007 年 3 月まで)、 及び、③その期間、私は青海省のモンゴル遊牧民を対象に法人類学的なフィールド調査を行ったこと、である。
一方、同センターのホームページからも判る通り、ここには法学や社会学、人類学の諸専門家が所属しており、 メンバー全体としては多岐に亘る研究テーマを持つものの、「社会における法」(law-in-society)の研究を目指す点ではみな共通している。また、同センターでは学期中に様々な定期セミナーが開催されており、法学部の諸定期セミナーと併せれば実に多くのセミナーが一週間にあり、その多さは、 セミナー全てに出席すると自分の研究が出来なくなるほどである。こうした活発な諸イベントの中で私の興味を最も引いているのは、同センターにおける大学院生を対象とした研究方法論に関する演習と、センターのメンバーたちによる研究方法論を巡る不定期の討論会である。これらの授業と討論会は、自らの研究方法をもう一度考え直そうとしている私に有益な示唆を与えてくれている。
私が研究している法制史の分野は、元々は法学部における法の歴史を教える授業として登場したものであろうが、現在は法学者や歴史学者が中心となって行っている一つの学問領域になっている。しかし、今日の日本における法制史分野はその研究方法論から見て決して独立の学問分野として成立しているとは言えない。なぜならば、今日の法制史分野は法学や社会学、 歴史学の手法、或いはその併用を基礎に成り立っていると見なされるからである。特に私が行っているアジアの伝統法の研究にとっては、 学際的な研究手法が最も有用であると考えられている。もちろん諸分野の方法論に過度に拘る必要は必ずしもないだろうが、学際的な研究を
行っている者は少なくとも自らがどのような研究の視点を採っているのか常に自覚しているべきと思う。
研究方法を予め明確にしておくこと自体は、当該研究における理論構築作業にも関連する。どのような研究方法(或いは研究視点)を採るかによってその研究が目指す到達点も異なってくるからである。日本では研究方法論に関する教育研究があまり重要視されていないようである。そのためか、日本の社会科学の諸分野では実証研究に偏る傾向が見られる。白眉プロジェクトは、我々に自己責任に基づいた自由な研究が出来る環境を提供してくれている。単なる記述的な研究では世界中の学者と対等な対話が出来なくなってきている社会科学(少なくとも私の研究分野)の実態を痛感する中、今後は白眉プロジェクトにおいて更なる高いレベルの研究が出来ればと願っている。
最近読んでいる本
(エルデンチロ)