シリーズ白眉対談15「最適化」(2018)
登場人物
司会・編集
ニューズレター編集部
登場人物と研究課題
小川 敬也 特定助教 『再生可能エネルギー由来のアンモニアを利用した水素社会の基盤構築』
菊谷 竜太 特定准教授 『インド・チベット術語集成構築のためのタントラ文献の包括的研究』
佐藤 寛之 特定助教 『制約付き最適化問題に対する幾何学的アプローチの数理とその展開』
宮﨑 牧人 特定准教授『細胞骨格が司る細胞機能発現機構の構成的理解』

自己紹介
(佐藤) 8期の佐藤寛之と申します。今日はよろしくお願いします。私は最適化自体が研究テーマでありまして、特定の問題というよりは、あるクラスに属する問題に対して共通に適用可能な最適化アルゴリズムを開発するというところに主眼を置いて研究をしています。
(小川) 8期の小川敬也と申します。私は、再生可能エネルギーを使って肥料やエネルギー源になるアンモニアを合成したいと思って研究しています。
(宮﨑) 8期の宮﨑牧人といいます。生き物が動いたり増えたりする仕組みを、生き物の最小単位である細胞を使って解き明かそうという研究をしています。
(菊谷) 8期の菊谷竜太です。専門はインド・チベット仏教ですが、インド仏教の長い歴史で一番最後に登場した密教という教えについて研究しています。
最適化という言葉
(司会)今日のテーマは最適化ということですが、最適化について皆さんの研究と絡めてお話ししていただければと思います。
(菊谷)最初に最適化という言葉って一体何だろうって思って、英語だとOptimizationですよね。Optimizeという動詞からつくられた名詞ってことなんですが、もともとはOptimismと同じくラテン語の「最善」Optimusに由来するとも言われていて、わたしも専門外で詳しくないですけど語源についてはちょっと気になりますね。
(小川)それは面白いですね。最適化って、基本的には何かリソースが限られてる必要がありますよね。例えばわれわれの月給が限られてるからこそ、節約という最適化をするわけですけど。 一同 (笑)
(小川)なので、限られてるから最適化が必要っていうことが最適化の語源に関係している気がしますがどうでしょうかね?
(菊谷)いや、ちょっと私も連想なので、ちゃんと調べてみる必要があると思うんですけれど。もともと私が訊きたかったのは、数学や他の分野で言う「最適化」の定義ってどっから始まったのかなっていう。
(小川)どっから始まったか、というと?
(菊谷)誰が呼び始めたのかなっていうのが気になって。
(佐藤)確かに。私が研究しているのは数理最適化というもので、一般的な最適化という言葉とは区別する必要があるかもしれないんですけれど、その数理最適化では、今ちょうど小川さんがおっしゃったように、何か最小にしたいもの、―たとえばコスト―であったり、あるいは最大にしたいもの―たとえば利益―であったりというものを考え、これを目的関数と呼びます。限られたリソースの下で―それを制約条件と我々は呼んでいるんですけれども―制約条件を満たすように、目的関数を最大化する解を見つけたいという問題を数理的に定式化して、それを理論的に解析したりコンピュータを用いて解くということをやってます。
(菊谷)その数理最適化の定義っていうのが、広く一般に戦略とか、さっき小川さんのおっしゃられた話みたいなものの最適化に広がっていったのか、もともと何か漠然とした最適化の概念があって、数理最適化ではそういうふうに新しく定義づけられたっていうのか、順番的にどうなのかなっていうのが少し気になって。
(佐藤)なるほど。数理最適化の発生としては、後者のほうだと思いますね。何か漠然とよりよいものを目指したいというのがあって、それを数学的に解決する理論体系として、数理最適化ができたと。
(小川)理屈がついていくと、それに対して的確な行動とかが生まれるんであって、ランダムにやってる時点では的確なこととか起こんないですよね。だからロジカルであることが、かなり最適化にはつながることだったりはしないですかね。
(宮﨑)多分、目的がはっきりしてないといけないですよね。明確じゃないと。
(佐藤)そうですね。みんなで何かあるゴールに向かって、ベストを目指そうということで最適化をしていっても、一人一人が考えるベストがちょっとずつずれていると、みんな違うところを目指していってしまうので…目的をしっかり持つことが大事だと思います。
(宮﨑)客観的に捉えられて、全員が共有できないといけないですよね。
(佐藤)そう思います。ただ、目的を決めたうえで、その達成を目指していく最中でも、実はやっぱり最初に定めた設定は少し現実の状況からずれているとなったら、何が最適かっていうことをちょっと捉え直して修正していくというのは重要ではあると思うんですけれども。私は特に数理最適化を意識しているからそういう言い方になるのかもしれませんが。
(宮﨑)でも僕の感覚はそれしか持ってないんですよ。何かさっきのお金の話でも、例えばいかに最短距離で時間を短く、いろんな場所を回れるルートをどうやって決めるかっていう問題とかあると思うんですけど(注1)、それも時間っていう評価軸で、定量的な値で評価できるから、最適化っていうのはできると思うんですよね。だから物理でエネルギーを最小にするとか、何かの表面積を最小にするとか、結局は数字や数式で表せることについてのみ、最適化っていうのは定義できるんじゃないかなあと思ったんですけど、もっと広義な意味の最適化ってどうなのかな?(笑)