動物の行動を知ること(原村 隆司/2014)
なんのために生物は生きているのか?この疑問は、生物学を対象とする研究者だけでなく、多くの方々が一度は考える問題であると思います。もちろん、私も高校生の頃、この疑問について考えました。様々な視点からこの疑問に関する答えはありますが、生物学の視点からこの疑問を解決したいと思い理学部に進学したのが、私の研究者としてのきっかけになったのかもしれません。私が専門とする動物行動学や行動生態学の視点では、簡単に言うと、「自分の子供をより多く残すために生物は生きている」という結論に達します。イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスが書いた本「The Selfish Gene: 利己的な遺伝子」を読んだ方もいらっしゃると思いますが、「ライバルを蹴散らしてでも自己の適応度
(生存や繁殖率)を高めること」、それが、生物が持っている特徴であるといえます。
From spot of the study
「生物が持つこのような適応度を高める行動を外来種駆除に利用できないか」というのが、私の現在の研究テーマです。外来種は、本来の生息地から他の場所に持ち込まれた生物のことをさしますが、残念なことに、これらの外来種は本来そこに住む在来種に悪影響を与えたり、最悪の場合、在来種を絶滅に追い込みます。そのため、少しかわいそうではありますが、外来種は駆除していく必要があります。今、私が対象としている外来種は 「オオヒキガエル」というカエルです。このカエルはサトウキビ畑の害虫駆除のために、世界中の様々な地域に持ち込まれました。もちろん、このカエルも、自身の適応度を高めるために様々な行動や生態を進化させています。例えば、カエルは交尾のために雄がゲコゲコ(オオ ヒキガエルは、ボボボボボ….)と鳴きます。田んぼでも、 梅雨時期になると色んなカエルの鳴き声を聞くことができますね。このカエルの鳴き声にも、なぜか多くの雌を引きつける鳴き声があったり、まったくモテない雄の鳴き声があったりします。多くの雌を引きつけることのできる雄は、より多く自分の子供を残すことができます。 また、あるフェロモンは、同種ライバルの成長を抑制します。成長を抑制されたライバル個体は、体が小さいので、他個体に共食いされてしまいます。いずれの場合も、 繁殖や生存率といった自己の適応度を高めるために進化してきた特徴です。このように進化してきた行動や生態をうまく利用することで、より簡単にオオヒキガエルを一カ所に集めて捕獲したり、個体数を減らしたりできるのでは?と考えています。
思いついたアイデアの駆除法が効果あるのかどうかを調べるためには、生きた個体を用いての生物試験が必要不可欠です。オオヒキガエルは特定外来生物として指定されているので、持ち運びをすることができません。そのため、私の研究現場は、オオヒキガエルが移入された沖縄県の石垣島です。野外でオオヒキガエルの成体やオタマジャクシを採集し、目星をつけたフェロモンが個体の行動をどのように変化させるのかをビデオカメラで記録したり、多くのオオヒキガエル個体を集められる鳴き声をプレイバック実験などで明らかにしたりしています。カエルは夜行性のため、オオヒキガエルを捕まえたり、野外実験を行ったりする場合は夜が調査時間となります。カエルがいるところには蛇もいるので(石垣島にはサキシマハブという毒蛇がいます)、蛇に咬まれても大丈夫なように膝までの長靴を履いた状態で実験を行っています。満点の星空の中、長靴をはいて一人ぼっちでカエルを捕まえたり実験を行なったりしている自分を想像するとなにやら滑稽のような、しかし、とても贅沢な時間をもらっているような、そんな気分になります。このような外来種自身の行動を利用した駆除法というのは、まだ発展途上の状態です。その理由の一つが、やはり外来種は生物学の対象動物としては人気がないため(基本的に悪者扱いされているので)、 基礎的な行動や生態さえも解明されていないからです。オオヒキガエルを理解すればするほど、オオヒキガエルの駆除研究が発展する、何やら矛盾しているような気もしますが、オオヒキガエルとにらめっこしながら石垣島で実験する研究スタイルはこれからも続きそうです。

(はらむら たかし)