第1回白眉シンポジウム「いのち・こころ・ことば」(2012年2月14日/西村周浩)
2012年2月14日(17:00-19:30)、京都大学楽友会館2階講演室において第1回白眉シンポジウムが開催されました。「いのち・こころ・ことば」というテーマで、3つのキーワードの間をつなぎうる未知の領域を白眉研究者と一般参加の方々が一体となって模索することが、この全体討論型シンポジウムのスローガンとなっていました。小雨が降り続くあいにくの天気でしたが、それでも約50名が集う盛会となりました。蝶ネクタイをまとった二人の司会、本センターの山﨑正幸准教授と熊谷誠慈助教が緊張感を漂わせながらも軽快な語り口で開会を宣言し、その後順次3名の本センター研究員が話題提供者として会場の中央に立ち、各自の専門分野(「いのち」、「こころ」、「ことば」)についてその概要と成果の一部を紹介していきました。

まず、大串素雅子助教は「いのちの始まり~受精~」というテーマでレクチャーを行い、受精、すなわち精子と卵子の融合という一見単純に思われるプロセスにおいて融合以外に異種の精子侵入をブロックするセキュリティーシステムが機能していることなどを紹介しました。また、減数分裂による種の多様性の保持、受精卵が臓器や皮膚などへと分化する前段階に有する全能性・多能性、単細胞のクラミドモナスが群体を形成した際に生じる生殖様式の変化などについても詳しい解説が行われました。
佐藤弥准教授は、「意識上・意識下の視線注意~心理学における主観 vs. 客観の問題~」というテーマで、ある刺激とそれに対するヒトの行動に注目し、心の客観的世界へのアプローチの手法を披露しました。ヒトは他の動物に比べて白目の面積が相対的に大きく、視線の役割が大きい、あるいはそう進化していったと考えられています。顔のイラストをそれとは無関係な刺激とともに被験者に見せる実験においては、ヒトの反応がイラストの視線の方向へとつられる傾向が明らかにされました。
最後に、ネイサン・バデノック准教授は、「言語の多様性は壁となるか?橋渡しとなるか?~我々がグローバル社会でつながるために~」という報告の中で、2週間に1つの割合で言語が消滅しているというショッキングな事実を提示してくれました。言語はコミュニケーションの道具というだけでなく、それが使用されている社会という文脈におくと各言語使用者同士の力関係や帰属意識の徴表として機能します。言語の命運はそういった社会要因に大きく依存していることが彼の報告によって示されました。

すでに以上3名の発表中にも随時クロスディスカッションが行われていましたが、休憩をはさみシンポジウムはいよいよ会場全体を巻き込んだ議論へと発展していきました。素朴な質問が話題提供者に投げかけられることもあれば、一家言もつつわものたちによる意見表明など、場が沈黙に支配されることはありませんでした。その勢いは、場所を京都大学次世代研究者育成センター(iCeMS西館1階)に移して行われた懇親会にも持ち込まれ、冷めやらぬ情熱はいかにもヴァレンタインの夜にふさわしい烈しさでした。

(西村 周浩・にしむら かねひろ)